欧州の銀行と流通部門、デジタルユーロ発行枠組み規則案に期待や注文

(EU)

ブリュッセル発

2023年07月06日

欧州銀行連盟(EBF)は6月28日、欧州委員会が同日発表したデジタルユーロ発行枠組み規則案(2023年7月4日記事参照)について、関連法令でデジタルユーロの主要な特性を定義し、市場が流通を拡大できる余地を残し、保有上限額や銀行など決済業務を行う機関の手数料・サービス使用料について明確に定める必要があると提言した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EBFのビム・マイス最高経営責任者(CEO)は、デジタルユーロの導入は将来の欧州の金融サービスに多大な影響があるとし、欧州委案を主軸に徹底的で民主的な社会全体での議論が必要との見解を示した。

EBFが強調したのは民間事業者の参画の重要性だ。デジタルユーロを発行するのは欧州中央銀行(ECB)だが、民間部門がさまざまなソリューションを開発し、官民が協力して欧州で競争力ある決済手段を提供する可能性を追求すべきだとした。公的支援が必要な分野としては、デジタルユーロの流通を可能とする決済インフラの構築などを挙げた。

銀行など決済業務を行う機関の役割は、口座の開設・維持、顧客の本人確認や情報管理、マネーロンダリングといった不正行為対策など多岐にわたる。EBFは、銀行などのこうしたさまざまな役割を反映した決済手数料や付加価値サービスの使用料に関する調和のとれた枠組みを策定することが必要と主張。また、保有額や取引額については、預金の流出や銀行の融資事業への影響を避けるため、適切な上限額を定めるべきとした。

欧州の小売・卸売業界団体ユーロ・コマースも同日にプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、デジタルユーロ導入を基本的には歓迎する一方、利用者数の規模や流通業界の導入コストなどに懸念を示した。規則案によると、デジタルユーロはオフラインでも使用可能だが、ユーロ・コマースはこの点を重視。現金と同様に日常的な利用が進み、消費者と流通事業者にとってデジタル通貨の利用が大きなメリットになると指摘した。さらに、(1)事業者が銀行などに払う手数料は決済金額ベースではなく、決済回数に基づくものとし、限りなくゼロとして過剰な手数料が課されないようにすること、(2)デジタルユーロの受け取り義務が免除される決済機械・形態などの対象拡大、(3)既存の決済インフラに頼るだけでなく、新たなインフラ構築などイノベーションの促進が必要だと訴えた。

決済市場の戦略的自律の強化や公正な競争の実現にも期待示す

EUでは、決済市場は域内のクロスボーダー決済も含めて域外企業のシェアが大きく、競争が起こりにくいとされ、両団体はデジタルユーロという決済手段によって戦略的自律の強化を目指す欧州委の方向性に共鳴した。EBFはデジタルユーロ導入は公正な競争条件を備え、付加価値が高い将来的に有効な制度設計を行えば、ユーロの主要通貨としての地位を確実にすると強調。ユーロ・コマースはデジタルユーロが決済関連事業者間の競争や、より簡素な仕組みの手数料導入をもたらすことに期待を示した。

(滝澤祥子)

(EU)

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