レモンド米商務長官、IPEFサプライチェーン協定の利益強調、今夏の訪中意向も表明

(米国、中国)

ニューヨーク発

2023年07月27日

米国のジーナ・レモンド商務長官は7月25日、米国シンクタンクのウィルソン・センターが主催した対談型のイベント外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに登壇し、インド太平洋経済枠組み(IPEF)の交渉や今後の見通しについて説明した。

IPEFは2022年5月に発足した米国主導の枠組みで、日米を含む14カ国が参加している。IPEF参加国は、貿易、サプライチェーン、クリーン経済、公正な経済の4分野で交渉を進め、2023年5月にサプライチェーン協定の実質妥結に至った(2023年5月29日記事参照)。米国は、米国通商代表部(USTR)が貿易分野の交渉を担い、商務省がそれ以外の3分野を担当する。レモンド長官は、IPEFの交渉が伝統的な貿易協定のそれに比べて迅速に進められていることについて、IPEFがサプライチェーンの強靭(きょうじん)化や脱炭素などの特定のニーズに対応するための柔軟な枠組みだからだと指摘した。

写真 イベントに登壇するレモンド商務長官(ジェトロ撮影)

イベントに登壇するレモンド商務長官(ジェトロ撮影)

IPEFでは関税削減・撤廃を扱わないことから、枠組みに参加するインセンティブと合意の強制力をどう確保するかが課題とされる。この点に関し、レモンド長官は、IPEFは「(協定上の義務の)不履行があっても関税が引き上がらないという点では強制力はない。しかし、ルールに従わなかったり、約束を守らなかったりする国は(協定上の)恩恵を受けられないので強制力はある」と説いた。例えば、サプライチェーン協定で設立を決めた「IPEFサプライチェーン協議会」では、ビジネスの促進や供給網に関するデータ共有の方法といった、参加国にとって利益を生み出す事項を話し合うため、各国は参加を促され、結果的に強制力を伴うとの見方を示した。

クリーン経済の分野については、参加国のインフラ構築や脱炭素に必要な資金やノウハウの提供で支援を行うと言及した。米国国際開発金融公社(DFC)は既に、クリーン経済に関する協定の参加国などにおけるインフラプロジェクト向けに、3億ドルの融資を承認している(2023年7月3日記事参照)。公正な経済の分野については、汚職防止や透明性などに合意することで、米国などの企業から参加国への投資を促すことができるとした。参加国の反汚職や税制改善などの取り組みに対して、米国は国務省や財務省、米国国際開発庁(USAID)が技術支援を提供する予定だと語った。

今後の交渉スケジュールに関し、11月に米国で開催予定のAPEC首脳会議までに、商務省が交渉する3分野の全てで協定を締結する決意だと表明した。また、DFCによる融資のような「具体的な成果物」を追加的に発表したいとの意向も示した。

レモンド長官は、最後に中国との関係に関する質問にも答えた。中国とは国家安全保障にリスクのない分野でビジネスを行う必要があると主張した。人工知能(AI)や半導体などの米国が持つ技術のうち、「中国が自国の軍事力を高めるために必要とする技術を見極め、同盟国と協力して、それらの能力が中国に渡るのを阻止する」と言明した。

米中関係を巡っては、アントニー・ブリンケン国務長官、ジャネット・イエレン財務長官、ジョン・ケリー気候変動担当大統領特使が6~7月に訪中し、閣僚らによる対話が続いている(2023年7月10日記事参照)。レモンド長官も、日程は未定としつつ、「今夏後半に(中国を)訪れる計画だ」と述べた。

(甲斐野裕之)

(米国、中国)

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