北部の電力不足が深刻化、日系製造業の生産活動に影響も

(ベトナム)

ハノイ発

2023年06月09日

電力事業を担う国営企業ベトナム電力総公社(EVN)は、5月下旬ごろから電力不足のため、首都ハノイ市、ハイフォン市、バクニン省、クアンニン省など、北部の至るところで計画停電や厳しい節電要請を始めている。これまでも北部では夏場に電力不足になりやすく、節電要請に至る事態が起きていた(2022年4月8日記事参照)。2023年は猛暑による電力需要の増加などから、例年以上に電力不足が深刻化し、ハノイ市街地や日系製造業が入居する工業団地でも停電が相次いでいる。

日系製造業への影響は地域や工業団地によって異なるが、既に多くの企業の生産活動に支障が生じている。中には、停電開始の数時間前に事前通知を受け取る場合や、通知なしの停電となる企業もあるという。度重なる予告なしの停電に見舞われるハノイ近郊の日系企業は「計画停電には協力したいが、予告なく電力を遮断されると損害が甚大だ。製造中だった商品の処理や設備の停止処置などで、危険な作業も伴う」と危機感をあらわにする。こうした状況を受け、在ベトナム日本大使館やベトナム日本商工会議所はベトナム政府に対し、工業団地への電力供給の配慮、停電・節電の通告方法の見直しを要請するなど、事態改善に向けて動いている。

電力不足の影響は市民生活にも出ており、停電中の死亡事故や、暑さを逃れて冷房が維持された商業施設に避難する住民の様子も報じられている(VNエクスプレス6月2日、「コンアン・ニャンザン」紙6月6日)。

北部は例年5~7月にかけて降水量が少なく、気温が上がる日が多い。そのため、国内の発電の3割を担う水力発電量が減り、代わりに石炭火力発電への依存度が増す。商工省のドー・タン・ハイ副大臣は、2023年の電力不足の原因について、最高気温40度超の記録的猛暑による電力需要の増加や、輸入石炭の納品遅れなどと説明する。

EVNハノイによると、2023年の管内の5月の1日当たり平均電力消費量は7,541万キロワット時(kWh)で、5月31日の電力消費は9,500万kWhに達した。前年5月は最大でも7,100万kWhだったため、電力需要は想定を上回るものだったといえる。しかし、電力需要の伸びが予測されていた中で起きた電力不足に対し、大型電源開発の許認可遅れや不十分な給電管理など、政府の対応に改善の余地があると指摘する日系企業の声は多い。

ハイ副大臣は電力確保の対策として、発電送電などにかかる既存システムの運営強化や、再生可能エネルギー発電設備と送電網接続の手続き迅速化、節電の強化などを挙げた。しかし、北部の発電設備については、6月1日時点で、フル稼働を続けてきた9つの石炭火力発電所で発電容量の低下などの不具合発生や、水力発電の水源が枯渇するリスクが報じられている(カフェF6月3日)。既存の発電設備では打開策に限りがあり、今後も厳しい状況が続きそうだ。

(萩原遼太朗)

(ベトナム)

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