経済成長率は0.3%に低下、洪水や外貨不足で急減速

(パキスタン)

カラチ発

2023年06月16日

パキスタンのイスハック・ダール財務相は6月8日、2022/2023年度(2022年7月~2023年6月)の経済白書を発表した。実質GDP成長率(暫定値)は0.3%と前年度の6.1%から急減速した。新型コロナ禍でマイナス成長となったパキスタン経済はその後に急回復したが、2022年以降、歴史的な洪水被害、外貨準備不足による輸入制限、通貨下落、高インフレ、利上げ、IMFプログラム再開の遅れなどの逆風の中、経済は急減速した。政府は2023/2024年度の実質GDP成長率目標を3.5%とし、景気回復を目指す。

産業別では、最も大きく落ち込んだのは工業で、前年度比2.9%減(前年度は6.8%増)だった。部品や原材料の輸入が厳しく制限された製造業は3.9%減(同10.9%増)となった。うち大規模製造業(LSM)は、自動車が46.0%減、輸出の約6割を占める最大産業の繊維が16.0%減、医薬品が23.2%減と主要産業が大きく縮小し、LSM全体で8.0%減に落ち込んだ。

完全現地組み立て部品(CKD)の輸入が厳しく制限された自動車産業は、2022年7月から2023年5月までの11カ月間の乗用車販売台数が9万2,554台と前年同期比56.1%の大幅な減少となった。日系を含む自動車メーカー各社は、現在も部品在庫不足でたびたび操業停止に追い込まれている。

農業は前年度比1.6%増だった。小麦が5.4%増、サトウキビが2.8%増、トウモロコシが6.9%増とそれぞれ伸び、綿花41%減、コメ21.5%減を補う結果となった。国産綿花は繊維産業の基礎となるが、2022年の洪水被害により、綿花生産が前年度の833万俵から491万俵へと41%の大幅な減少になった。

GDPの約6割を占めるサービス業は前年度比0.9%増にとどまった。サービス業の約3割を占める卸・小売業が4.5%減と落ち込んだことが響いた。

2022/2023年度のインフレ率は、国際エネルギー価格高騰や輸入制限による供給制約により、前年度比29.2%となった。インフレ抑制へパキスタン中央銀行(SBP)は政策金利を年21%にまで引き上げた。SBPが保有する外貨準備高は2022年に急減し、2023年6月2日現在39億ドルと輸入1カ月分の水準となっている。通貨パキスタン・ルピーは2022年6月8日の1ドル=201ルピーから、2023年6月8日現在1ドル=287ルピーと大幅に下落した。パキスタン経済は厳しい局面を迎えている。

(山口和紀)

(パキスタン)

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