欧州製薬業界、EUでのデジタルセラピューティクスの普及に向けて提言

(EU)

ブリュッセル発

2023年06月12日

欧州製薬団体連合会(EFPIA)は6月2日、EUにおけるデジタルセラピューティクス(DTx)の普及に向けた課題や政策提言をまとめた報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。DTxは、患者のスマートフォンなどの情報機器にダウンロードしたソフトウエア(アプリ)を用いて、エビデンスに基づいた治療や健康管理を行うもの。不眠症の治療、糖尿病の自己管理や外科手術後のリハビリなどで実施されている。欧州では特に、通常の診療が困難になった新型コロナウイルス感染症の流行期に医療機関の間で注目が高まった。

EFPIAは「メンタルヘルスの治療からがんや糖尿病治療の管理、手術後のリハビリまでDTxの可能性は非常に大きい」と期待を寄せる。しかし、現時点でのDTxの活用はごく少数のEU加盟国にとどまっている。DTxの臨床効果や費用面での価値評価、保険償還や開発企業への資金提供を行っているのはベルギーとドイツのみだ。報告書では、活用が限定的なため、薬事承認や価格設定などを含め、DTxの開発と販売に関連する明確な基準や要件の策定が遅れていると指摘した。

EUでは、DTxは「医療機器」とみなされ医療機器規則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが適用されるが、DTxに特化した法令はない。例えば、ドイツは独自のデジタルヘルスケア法(2019年12月施行)によって規制要件を定めるなど、加盟国間で規制に差がある。また、DTxの有用性の評価基準や、保険償還の対象とするかどうかの基準も多くの国ではない。報告書では、DTx企業に対する公的な資金支援や患者の利用に応じた保健当局からの払い戻しが不十分であること、医師や患者がDTxについての知識が乏しいことも、普及にあたっての課題として挙げた。

これらの課題を踏まえて、報告書では、EU共通の規制要件と明確なガイダンスを策定し、加盟国と欧州委員会は有効な治療手段であることを証明するため臨床面で満たすべき要件の調和や、DTxによって得られるデータの共有やその活用の仕組みづくりで協力すべきと提言。DTxの価格設定や保険償還についても、全加盟国で明確で透明性が高い仕組みを設けるべきとした。

また、保健当局に対し、一定の要件を満たせば、導入段階で臨床効果に関するデータが不十分であっても医療機関や患者に一定期間使用してもらい、関連データを増やし臨床・経済面での効果のより正確な評価につなげるといった柔軟なアプローチを取ることや、臨床結果に基づいた保険償還モデルなどを採用するべきとした。

そのほか、患者にコスト負担を求めるのではなく、加盟国がDTxに特化した予算措置を行うことや、医療分野の政策立案者、医療機関とDTx関連企業の間の連携を密にし、DTxへの信頼性を高め、医療機関や患者の理解を促進することが求められるとした。

(滝澤祥子)

(EU)

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