養殖魚の疫病対策で効果、食べるワクチン開発のスタートアップ TeOra

(シンガポール)

シンガポール発

2023年06月21日

2020年創業のTeOra(ティオラ)は、疫病による養殖魚や養殖エビの大量死を防止するため、経口摂取のワクチンを開発するシンガポールのスタートアップだ。同社は、202368日に開催された、シンガポール非営利団体のテマセク基金による環境技術公募「2023年ザ・リバビリティー・チャレンジ」の食と栄養の部門で優勝し、100万シンガポール・ドル(約1600万円、Sドル、1Sドル106円)の賞金を獲得した。

写真 テマセク基金の環境技術公募で100万Sドルの賞金を受賞したティオラの創業者、リシタ・チャンゲデ博士(写真中央、エコ・ビジネス社提供)

テマセク基金の環境技術公募で100万Sドルの賞金を受賞したティオラの創業者、リシタ・チャンゲデ博士(写真中央、エコ・ビジネス社提供)

ティオラを創業したリシタ・チャンゲデ博士は615日、ジェトロとのインタビューで、「養殖魚の疫病対策として現状、一般的なのは1匹ずつ注射することだ」と指摘した。しかし、特に小規模の水産養殖事業者にとってワクチンは高価なため、「ワクチンを投与しているのは、全体のわずか1%程度にすぎない」と語る。同社は、養殖エビ向けにホワイトスポット病(WSD)の経口摂取の予防ワクチンを開発。通常、エビがWSDに感染すると、4日以内に養殖池全体のエビが死亡してしまう。しかし、同社が開発した経口ワクチンを投与することで、生存率の大幅な向上が証明できたという。ワクチンを餌と混ぜて経口投与することで、効率的にワクチンを与えられるのがメリットだ。同社は、今回テマセク基金から獲得した賞金を用いて、シンガポールで養殖魚として一般的なシーバス(スズキ)で同社のワクチンの効果を検証する計画だ。

チャンゲデ博士は今後、パートナーとして、(1)疫病などの課題を抱えている大規模な水産養殖事業者、(2)養殖管理システムなど技術プロバイダー、(3)養殖用飼料会社、と協業したいと述べた。同博士は「日本の食品生産と輸出に、水産養殖が大きな割合を占めている。養殖魚の生育のために、疫病のない、健康的な環境づくりに貢献したい」として、日系企業との協業に意欲を示した。

テマセク基金は2018年から毎年、シンガポール国内の環境課題を解決する先端技術の公募を実施している(2022年11月24日記事参照)。2023年の公募には、82カ国から600件以上もの応募があり、ティオラのほか、二酸化炭素(CO2)からメタンを合成する技術を開発した米国のSusteon(サスティオン)が気候変動部門で優勝した。

(本田智津絵)

(シンガポール)

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