大手オンライン書店に聞く、業界動向と取り組み

(バングラデシュ)

ダッカ発

2023年06月09日

バングラデシュの首都ダッカの老舗書店「ジーナット・ブック・サプライ」が515日、惜しまれつつ60年の歴史に幕を閉じた(「デーリー・スター」紙429日)。他方、同じく老舗の「ブックワーム」は立地先(空軍敷地)からの移転要請を受け、30年間営業した店舗をダッカ中心部に移転し、20232月に同国初となる公園敷地内の書店をオープンした(「デーリー・スター」紙25日)。バングラデシュで新型コロナウイルス感染拡大を契機に、オンライン書店の利用が増加傾向にある中、実店舗に魅力を感じているユーザーも根強く存在するとみられる。

写真 ジーナット・ブック・サプライの店内(ジェトロ撮影)

ジーナット・ブック・サプライの店内(ジェトロ撮影)

そこで、ジェトロは書籍販売の地場系ECサイト「ロコマリドットコム(rokomari.com)」(2022年4月7日記事参照)のコミュニケーション・インバウンド・マーケティング部長のマフムデゥル・ハサン・サディ氏に、当地の書籍業界の変化について聞いた(57日)。

写真 ロコマリのマフムデゥル・ハサン・サディ部長(ジェトロ撮影)

ロコマリのマフムデゥル・ハサン・サディ部長(ジェトロ撮影)

(問)当地での実店舗販売の可能性は。

(答)少なくともダッカなど大都市では、まだ実店舗の余地がある。バングラデシュの消費者はeコマースを完全に信用していないからだ。一方、書籍業界の課題の1つに、当社を含む卸業者が書籍の供給を独占する構造で、書店にとって書籍の調達は容易でないことが挙げられる。この観点で、当社は国内の全書店と協力していきたいと考えている。eコマースと実店舗の両方を運営する書店もあるように、当社も近い将来、実店舗の立ち上げを考えている。伝統的な書店がビジネスを継続するには、他国の読者の動向なども考慮し、現在のeコマースを中心とするグローバルビジネスモデルにも適応していく必要がある。

(問)ロコマリの現在の取り組みは。

(答)当社は1日当たり1万5,000〜2万冊のオーダーに対し、約150人の社員が受注・配送を管理している。現在、8,000社以上の出版社と提携し、20万冊以上の販売書籍を有している。また、自社ウェブサイトで約5,000冊の電子書籍を販売しており、そのうち約300冊は無料で読むことができる。決済に関しては、バングラデシュ全土で代引き(キャッシュ・オン・デリバリー:COD)システムを可能とすることで、読者からの信頼性を確立している。

(問)新型コロナウイルスによる売り上げの変化は。

(答)顧客の書籍購入の頻度が上がった。新型コロナ禍前は月10万冊程度を販売していたが、5月現在の顧客数は2,000万人以上、販売数は年間約3,000万冊に達している。2月は「本の祭典(ボイメラ)」(2022年3月4日記事参照)、3月には当社独自のオンライン上の「ボイメラ」キャンペーンでセールも行うため、この時期の売り上げが特に高い。

(問)オンライン書店でありながら、スーパーストアとして他の商品も販売する理由は。

(答)より多くの顧客を獲得して新たな可能性を広げるため、書籍のほかに文房具、オーガニック系などの安全な健康食品、スポーツ用品、電子機器なども扱っている。

(問)ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)マーケティングの効果は。

(答)当社の売り上げの30~40%はフェイスブック広告を通じたもので、SNSは販売プラットフォームの主軸だ。オンライン注文はダッカ、チョットグラム、シレットの首都圏だけではなく、ラジシャヒやボグラなどの地方都市からも多い。SNSを通してバングラデシュ全土の顧客とつながることができている。

(問)日系企業との協働機会は。

(答)現時点で合弁などの具体的な計画はないものの、当社は地場系グループ企業のオンノロコム(OnnoRokom)グループ傘下にあり、特に教育分野やスタートアップ産業などに関する新しい技術やサービスで、日系企業と協業できることを期待している。

(瀧本祝、山田和則、イスラット・ジャハン)

(バングラデシュ)

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