米上院トップのシューマー議員、AI法案策定に向けた行動枠組み発表

(米国)

ニューヨーク発

2023年06月22日

米国連邦議会上院トップのチャック・シューマー院内総務(民主党、ニューヨーク州)は6月21日、米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)で講演外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、人工知能(AI)の急速な進歩に連邦議会が対応するための包括的な枠組みを提案した。シューマー氏は4月にAIに関する法案の策定に取り組むと発表しており、講演で今後の計画なども明らかにした。

シューマー氏は講演の冒頭、AIは医療などの分野で正しく応用されれば、人々の生活を大きく改善する一方、雇用の喪失や誤情報の拡散、新兵器開発など現実的な危険も存在するとの認識を示した。その上で、AIがもたらすリスクから米国民を守り、AIの利益を最大化するには、民間の善意に頼るのではなく、議会が積極的に役割を果たすべきと主張した。ただ、AIは労働や国防など議会が伝統的に扱ってきたどの分野とも異なるため、議会の取り組みは「多くの点でゼロからのスタート」になると認めた。

シューマー氏は、議会の知見不足を埋めるため、これまで100人以上のAI開発者や研究者らと数カ月にわたって議論を重ねたと説明し、AIに関する法案を用意するための行動枠組みとなる「安全なイノベーション枠組み(SAFE Innovation Framework)」を提唱した。この枠組みで最初に取り組まなければならない課題は、イノベーションの抑制ではなく、奨励としつつ、イノベーションの安全性が確保されなければ、AIの開発を遅らせることになると指摘。そのため、同枠組みではセキュリティー、説明責任、米国の民主的基盤の保護、説明可能性の4つを追求すると訴えた。詳細は次のとおり。

  1. セキュリティー:AIが独裁国家や国内の反政府勢力によって悪用されることを防ぐために「ガードレール」を設けることが必要。加えて、生成AIの普及による雇用の減少や所得の偏在から労働者を守る対策も必要。
  2. 説明責任:AIの使用に伴う人種的偏見や知的財産の侵害が起きないよう、AIの開発、監査、導入に関わる規制を行うべき。
  3. 民主的基盤の保護:AIが民主主義の基盤となる選挙プロセスの弱体化などに使われかねないとの危機感がある。中国共産党が先行してAIのゲームのルールを設定するかもしれないため、米国が率先してAIの適切な使用に関する規範を定めることが重要。
  4. 説明可能性:上記3つの目標はAIの説明可能性がなければ達成できないため、AIの意思決定プロセスの透明性を重視。

シューマー氏はこの枠組みに基づく法案検討の手順として、2023年秋にAI分野の専門家を集めたフォーラムを開催すると明らかにした。このような方法を取る理由として、公聴会など典型的な立法手続きでは、AIの進歩の速さに後れを取ってしまうことを挙げた。他方、「AIは議会の典型的な党派争いの枠外にあるべき」として、超党派で法案策定に当たる意向を示した。実際に、シューマー氏は共和党のトッド・ヤング上院議員(インディアナ州)らと超党派のグループを作って活動を始めたほか、上院の各民主党委員長に共和党の筆頭理事と協力分野を特定するよう依頼したと説明した。

シューマー氏は講演後に行われた質疑応答で法案策定にかかる期間を問われ、「数カ月というのが適切なスケジュールだろう」と答えた。

(甲斐野裕之)

(米国)

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