アジアの最優先課題は紛争回避、シンガポール国防相が安保会議で演説

(シンガポール)

シンガポール発

2023年06月05日

シンガポールのウン・エンヘン国防相は6月4日、英国の国際戦略研究所(IISS)主催のアジア安全保障会議(シャングリラダイアログ)での演説で、アジア各国首脳の向こう10年間の最優先課題が紛争回避だと強調した。ウン国防相は、「欧州とアジアでの同時紛争となれば破滅的」だと皆が理解しているが、「地政学上の現実と方向性が、異なる方向に向かっている」との懸念を示した。

同国防相は演説の中で、5月26日の南シナ海での中国軍機と米軍機との接近や、6月3日の台湾海峡で中国軍艦が米国の軍艦に急接近したことに言及した。その上で、「こうした不測の事態への対応のためにも、公式、非公式の対話のチャンネルが不可欠だ」と強調した。同国防相は、米国と中国間の高官会合「米中戦略経済対話(S&ED)」が2016年を最後に開催されていないと指摘した。また、米中の軍幹部の交流が途絶え、米国と中国の国防相が双方の国を最後に訪問したのは2018年だと述べた。

同国防相は、米国と中国がそれぞれASEANの加盟各国に対し、米中いずれかを支持することを求めていないと主張してきたと指摘。しかし、「米中の関係悪化がやがて、加盟各国に対し難しい選択を迫ることになる」との見方を示した。

また、同国防相は、アジア太平洋地域の2022年の軍事支出が総額5,750億米ドルと、ロシアによるウクライナ侵攻のような紛争がなくても、10年前と比較して45%増加し、向こう10年でさらに増加すると述べた。同国防相は、「適正な軍事予算は軍事侵攻を抑止する効果がある」と語った。その上で、「戦略的な対話の枠組みと協力がなければ、抑止から紛争へと向かうリスクが高まる」と述べた。

シャングリラダイアログは2002年以来、シンガポールで毎年開催されているもので(2020~2021年は新型コロナ禍で中止)で、今回は米国や中国、日本など国防関連の閣僚級の代表約40人のほか、約40カ国から約600人が参加した。

(本田智津絵)

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