欧州委、マイクロエレクトロニクス分野で複数加盟国による最大規模の国家補助を承認

(EU)

ブリュッセル発

2023年06月14日

欧州委員会は6月8日、14の加盟国(注1)が共同申請したマイクロエレクトロニクスと通信技術に関するプロジェクト群「IPCEI ME/CT」を「欧州共通利益に適合する重要プロジェクト(IPCEI)」として承認した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。マイクロエレクトロニクスに関するIPCEIとしては、2018年の承認に続く第2弾。今回の承認で参加加盟国は対象の68プロジェクトに参加する中小企業やスタートアップ企業など56企業に対して、IPCEIとして過去最高額となる最大81億ユーロの国家補助を提供することが認められる。プロジェクトには137億ユーロの追加の民間投資も期待されている。

EUでは、加盟国間の競争環境を不当にゆがめる可能性があるとして、加盟国による企業への国家補助は原則禁止されており、一定の条件を満たす場合にのみ、欧州委の承認を受けた上で例外的に認められる。IPCEIは複数の加盟国にまたがり、EU目標に沿った高い公益性を有する事業に対して国家補助を認める国家補助規制の特例措置だ。

EUは近年、「戦略的自律」の名の下に重要技術の域外依存の解消を目指している。既に政治合意された域内半導体産業の支援策となる半導体法案(2023年4月20日記事参照)など、マイクロエレクトロニクス分野の域内産業の育成強化を目指しており(2022年2月17日記事参照、注2)、今回の承認もその一環とみられる。

今回承認された「IPCEI ME/CT」は、原材料やツール、チップ設計から製造プロセスまでのマイクロエレクトロニクスと通信技術のバリューチェーン全体を対象にする。主に、(1)周辺環境からアナログ信号を収集し、デジタルデータに変換する新型センサー、(2)より安全かつ効率よくデータを処理・記憶するプロセッサー、メモリーチップ、(3)より効率的かつ高性能な部品向けの新たな設計と革新的な材料、(4)より高速、安全、信頼性のある通信に必要な新技術などの開発を支援する。IPCEIが支援するプロジェクトは、2032年までに完了することが予定されているものの、一部の新技術については早ければ2025年にも製品化される見込み。

なお、対象プロジェクトには、承認を受けた参加企業のほかに、5加盟国(注3)とノルウェーの大学や研究機関など30以上の関係機関も参加する予定だ。

(注1)オーストリア、チェコ、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、マルタ、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スペイン

(注2)詳細は、ジェトロの調査レポート「EUの半導体政策と半導体法案の概要‐EUデジタル政策の最新動向(第1回)」(2022年8月)を参照

(注3)ベルギー、ハンガリー、ラトビア、ポルトガル、スロベニア

(吉沼啓介)

(EU)

ビジネス短信 2a5aa7cce870d7a6