パレスチナでもスタートアップエコシステム育成の動き

(パレスチナ)

テルアビブ発

2023年05月19日

パレスチナの英字紙「This week in Palestine」5月号は、イノベーションおよび起業家エコシステムに関する特集を組んだ。それによると、パレスチナのイノベーションエコシステムの価値は約6,600万ドル、ハイテクスタートアップの数は300社程度に過ぎないものの、近年はスタートアップエコシステム育成の動きが見られるという。

パレスチナでハイテク分野への就労を支援する非営利団体「ガザ・スカイ・ギークス」のディレクターを務めるアラン・エル・カディ氏は、プログラミング、グラフィックデザイン、翻訳、会計などのハイテク分野の仕事は、インターネット経由で業務を受注できるため、国内外への移動が制限されているパレスチナ人にとって都合が良いと指摘する。また、パレスチナには若くて意欲のある未就労の若年層が多数存在し、欧米の企業とも連携しやすいタイムゾーンに位置するなど諸要素がそろっているという。他方で、最近ではアジアやアフリカなどでも低コストでハイテク分野の業務を受注する事業者やフリーランスの技術者が増加しており、競争が激化している。

また、パレスチナで複数のイノベーション拠点の運営に携わるラテブ・ラビ氏は、スタートアップ企業数は増加しているものの、成長のためのインフラの整備が不十分と指摘する。パレスチナの抱える地理的な分断による難しさや域内での地域間格差などの影響により、スタートアップ企業や起業家に対するメンターシップ、関連ネットワークへのアクセス、資金調達、技術的専門知識などの各種リソースが不足しているという。一方、最近では、パレスチナ銀行が域内の各都市にインキュベーション拠点を設立するなど、イノベーションエコシステムが育つための環境を整備する動きも出始めている。

スタートアップ育成に向けた動きは資金調達面でもみられる。その1つが、世界銀行の資金提供で実現した国民経済省のプログラム「イノベーティブ民間セクター開発プログラム」だ。その一部であるパレスチナのエンジェル投資家に対する教育プログラムでは、投資戦略、デューディリジェンス、企業評価、取引条件、投資・ポートフォリオ管理、投資回収(エグジット)手続きなどの各種テーマについて学ぶことができる。

(太田敏正)

(パレスチナ)

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