世界初の地下水素貯蔵施設が稼働

(オーストリア)

ウィーン発

2023年05月22日

オーストリアのオーバーエスターライヒ州のガムぺルンで、世界初となるグリーン水素(注)用の地下多孔質貯蔵施設が4月末に実証施設の稼働を開始した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。「アンダーグラウンド・サン・ストレージ」と呼ばれるこのプロジェクトは2年前に開始され、国内最大のガス貯蔵会社RAGオーストリアを中心にエネルギー関係企業や大学など12企業・団体が参画する。

同プロジェクトでは、元々、天然ガスを貯蔵していた地下1,000メートルにある地下多孔質貯蔵施設において、太陽光発電による夏の間の余剰電力から製造されたグリーン水素を冬のエネルギー供給用に貯蔵することが可能となる(添付参考資料図参照)。

プロジェクトの発起人で技術リーダーのRAGオーストリアCEO(最高経営責任者)、マークス・ミッタエッガー氏は「ガムペルンで、私たちは、年間を通じてグリーンエネルギーを安定的に供給するため、ひいてはエネルギー転換を実現するため、何が可能で何が必要かを実証している」と強調する。

実証施設では、4.2ギガワット時(GWh)の太陽光発電の電力を水素に変換する。将来的には約1,000世帯の夏の太陽光発電から生じる余剰電力を水素に転換し、年間を通じて貯蔵することができるようになる予定だ。

研究用ではなく、実証用である同施設の投資費用は1,500万〜2,000万ユーロにのぼり、そのうち600万ユーロは国の気候・エネルギー基金から拠出される。

ミッタエッガーCEOによると、欧州全体の天然ガス貯蔵施設は約1,000憶立方メートルあり、そのうちの約85%が多孔質性岩などの砂岩にあることから、このプロジェクトの重要性がうかがえる。

また、オーストリア連邦政府のマグヌス・ブルンナー財務相(鉱業も所轄)は「私たちの目標は、2030年までにオーストリア国内およびオーストリアからの電力を100%再生可能エネルギーによるものにし、2040年までにオーストリアをカーボンニュートラルにするという野心的なもので、EUの目標から10年前倒しとなっている」(2021年5月17日付地域・分析レポート参照)と意気込み、これらの気候目標を達成するためには、投資、イノベーション、協力が必要であり、世界初の地下水素貯蔵施設の稼働によって(RAGオーストリアが)貯蔵するグリーン水素は、年間を通じた供給確保に大きく貢献すると同時に天然ガスへの依存を減らすことができる、と述べた。

実証施設では、2025年までに水素を製造、地下で貯蔵する。また今後、プロジェクト参加企業と共に、地下から取り出した水素をどのように利用できるかなどについても調査する予定だ。

(注)再生可能エネルギー由来の水の電気分解により製造される水素。

(金子マヌエル)

(オーストリア)

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