カーボンプライシング政策、世界で950億ドルの収入、世界銀行推計

(世界)

国際経済課

2023年05月25日

世界銀行は5月23日、「カーボンプライシングの現状と傾向 2023年外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した。同報告によると、4月時点で世界で導入されているカーボンプライシングの政策(注1)は2022年レポート発表時から5件増え、73件となった。これらの政策は世界で排出される温室効果ガス(GHG)全体の約23%をカバーしている〔このうち、排出権取引制度(ETS)が18%、炭素税が5.5%をカバー〕。このカバー率は、世界銀行が同レポートの発行を開始した10年前は7%だった。2022年4月以降のアップデートとして、オーストリアでEU全体での排出量取引制度(EU-ETS)でカバーされないセクターをカバーする新たなETSの導入、米国ワシントン州でのETSの導入などが挙げられる。

ETSでの取引価格は、昨今のエネルギー危機や生活費の高騰などの状況の中でも、世界的に上昇傾向をおおむね維持した。制度全体の半数で前年比価格が上昇する一方、約3割は同水準、価格が下落したものは15%未満だった。

炭素税とETSによる導入国・地域政府の収入(2022年)は世界全体で前年比1割増の約950億ドルとなり、大幅に増加した2021年をさらに上回った。このうち、ETSでの収入は69%、炭素税の収入は31%を占める。EU-ETSの収入は420億ドルで最も多い。この背景に、EU-ETSの規模の大きさ、取引価格の上昇と無償割当枠の削減がある。

2022年の世界のカーボンクレジット(注2)発行残高は、4億7,500万二酸化炭素(CO2)換算トン。急速に市場規模が拡大した2021年の4億7,800万トン(2022年レポートに基づく)と比較すると、2022年はわずかに減速した。その中で、国連気候変動枠組み条約に基づくクレジットメカニズムのCDMクレジットは2022年に増加し、全発行量の30%以上を占めた。2022年に急増した理由は、2021年10月に開催された国連気候変動枠組み条約第26回条約国会議(COP26)で、CDMの一部を各国の「国が決定する貢献(NDC)」目標に使用できることが決定されたことが考えられるとしている。

(注1)二酸化炭素(CO2)排出に対する価格付けを行うことで、排出側での排出抑制を促す。カーボンプライシングの主な政策には、炭素税と排出量取引制度(ETS)がある。

(注2)排出削減によって得られる単位。クレジットを取引できるクレジット市場には、国連・政府主導のものと、民間主導のもの(ボランタリークレジット)がある。

(板谷幸歩)

(世界)

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