米商務省、アンチダンピング税・補助金相殺関税の執行強化の規則案を公表

(米国、中国)

ニューヨーク発

2023年05月16日

米国商務省国際貿易局(ITA)は5月9日、アンチダンピング税(AD)と補助金相殺関税(CVD)の執行強化に関する規則案を官報で公示外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。7月10日までパブリックコメントを募集している。

ADとCVDは貿易救済措置の一種だ。ADは、輸出国の国内価格よりも低い価格による輸出が輸入国の国内産業に被害を与えている場合に、その価格差を相殺する関税を賦課できる措置だ。CVDは、政府補助金を受けて生産などがなされた貨物の輸出が輸入国の国内産業に損害を与えている場合に、当該補助金の効果を相殺する目的で賦課される特別な関税措置だ。いずれも、米国も加盟するWTO協定上で認められているが、具体的な手続きなどは各加盟国の国内法で定めている。米国の場合は1930年関税法が根拠法となっており、今回の規則案も同法に基づいた提案だ。ITAは2021年にもADとCVDを回避する迂回貿易の防止に焦点を当てた規則の改正を行っている(2021年9月27日記事参照)。今回の規則案は、2021年の改正後に発覚した修正点・改善点を反映したものとの位置づけだ。

今回、官報で提案された規則の変更点は、用語の定義の明確化など軽微なものを含めて22と多岐に及ぶ。そのうち、ADとCVDの有無や税額算定の判断に影響すると見込まれる点として、次が挙げられる。

  • 越境補助金規則の撤廃:ある外国政府が当該国以外に拠点を置く企業に補助金を供与した場合には、CVDの対象とはしないとしていた条項〔連邦規則集(CFR)第19章351.527条外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕を撤廃する(注1)。
  • 外国の生産者を利する外国政府の不作為:外国政府が当該国の企業から徴収すべき手数料や罰金などを減額・免除した場合や、当該国で財産(知的財産を含む)・人権・労働・環境の保護が不十分または存在しないことが外国生産者の価格競争力に影響を与えている場合に、その分の価格をベンチマーク価格から控除できるとする条項を新設する(注2)。

ITAは越境補助金について、ある外国政府の補助金が当該国以外での生産を利する事例が顕著になっているとしており、通商分野に詳しい米国の法律事務所などは、中国の「一帯一路」構想に対抗する狙いがあると指摘している。外国政府の不作為については、当該国以外で事業を行っていれば負担すべき「法令順守のコスト」を払っていないことになると説明している。バイデン政権は通商政策で、ここで列挙している知的財産や人権、労働、環境を重視する姿勢を掲げており、その方針が反映されたものと考えられる。ITAは最終規則の制定時期を明らかにしていないが、パブリックコメント募集終了後、どのようにまとめられるか注目される。

(注1)ただし、将来また状況が変化したときのために、留保するとしている。

(注2)ベンチマーク価格とはCVDの額を算定する上で指標となる価格で、一般的には補助金交付国で浸透した市場条件との関連で決定される。新条項案で、外国政府の不作為が価格競争力に影響を与えている分をベンチマーク価格から控除するということは、その分、CVDの額が高く算定されることにつながり得る。

(磯部真一)

(米国、中国)

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