欧州委、EU共通データベースによる通関の簡素化を目指す関税改革法案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年05月18日

欧州委員会は5月17日、EU関税同盟のさらなる統合に向けて、発足以来の最大規模となる関税制度の改革法案を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUの単一市場の基礎となる関税同盟は、域内の貿易においては、関税などの加盟国間の障壁を撤廃することでモノの自由な移動を可能とし、域外との貿易に対しては共通関税を設定している。一方で、域外の貿易における通関手続きに関しては、これまでも関税法典の制定など、加盟国間で調和を図っているものの、27加盟国が111もの個別の窓口やITシステムを運用しており、輸入事業者にかかる膨大な事務負担が問題となっている。そこで法案は、EU共通のデータベースとなる「EU関税データ・ハブ」と、その運用やEUレベルでのリスク評価を実施する新たな専門機関「EU関税局」を設置し、従来の申告ベースからデータに基づく制度に移行することで、通関手続きの大幅な簡素化を目指す。法案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

法案によると、輸入事業者は通関手続きに必要な情報を、輸入地点ごとに個別に加盟国税関に提出するのではなく、EU関税データ・ハブに直接提出することが可能となる。輸入が短期間のうちに複数回行われる場合、同様の内容であればデータが再利用されるため、初回提出のみで済ませることができる。

また、一定の基準を満たす事業者に対して、通関手続きの優遇措置を与える認可事業者(AEO)制度を発展させるかたちで、「信頼・検査(Trust & Check)貿易事業者」制度を新設。サプライチェーン全体に関する透明性の提供、支払い能力の証明など厳格な要件を満たす場合に、通関手続きの簡略化や短縮を認める。指定を受けた事業者は、輸入地点にかかわらず、事業者が所在する加盟国税関とのやりとりのみで通関を済ませることができ、場合によっては、一定の通関検査や手続きの免除も認められる。

EU関税データ・ハブの運用開始は2028年を予定しているものの、当初はオンラインプラットフォームなどのEコマース事業者を対象とし、一般的な輸入事業者による利用は2032年以降(全面的な利用の義務化は2038年以降)となる見通し。

さらに法案は、成長するEコマースにも対応する。まず、域内の消費者がオンラインプラットフォームを利用して域外から商品を輸入する場合、消費者でなくオンラインプラットフォームが、みなし輸入事業者として、通関手続きおよび関税の支払いに関する実質的な責任を負う。また、Eコマースを中心に不正利用が増加しているとして、150ユーロ未満の商品に対する関税の免税措置を廃止する。一方で課税価格が低い商品に関しては、関税計算に必要な品目分類を4つに簡略化する。

このほか法案は、Eコマースの普及などによる輸入量の増大と加盟国税関に求められる検査などが複雑化する中で、リスクに応じたより効果的な税関検査の実施も可能にする。加盟国税関は、EU関税データ・ハブの活用やリスク評価などのEU関税局の支援を受けることで、サプライチェーン全体を俯瞰(ふかん)し、限られた人的資源を最も検査が必要な分野に割り当てることができる。

(吉沼啓介)

(EU)

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