中国米国商会が2023年版白書を発表、米中関係緊張の中、商業的関与のためのチャンネル維持などを優先課題に

(中国、米国)

北京発

2023年05月10日

在中国米国企業の団体である中国米国商会は4月28日、2023年版白書(以下、白書)を発刊した。白書には在中国米国企業が直面する問題および米中両国政府への建議が盛り込まれており、今回で第25版目となる(注1)。

同商会は発表において、米中関係に対する信頼が失われ、米国企業の対中投資への懸念が高まっていること、中国政府による自立自強(注2)の重視が外国企業の不確実性を高めていることなどを指摘した。

その上で、2023年の優先課題として、(1)商業的関与と交流のための米中間のチャンネルの維持、(2)中国政府の全てのレベルにおける明確で一貫した政策と、透明性ある実施、(3)非関税障壁、調達における制限、国有企業や国内企業に有利な取り扱いなどの継続的な懸念に対処する努力を通じ、外資系企業の市場アクセスを拡大すること、の3点を挙げた。

(1)では、同商会のビジネス環境調査において、2023年の中国におけるビジネス上の課題として、「米中関係の緊張の高まり」が3年連続で1位となった(注3)ことや、過半数が2023年の米中関係について悲観的な見通しを示したことを指摘した(注4)。その上で、米中両国政府に対して、国家安全保障や価値観の相違による長期的問題についてはハイレベルで対処しつつ、比較的センシティブでない分野において双方の実務者による協議を可能にすることなどを提案した。経済安全保障に関しては、民間企業が真に直面する問題や企業の経験を評価するためには経済界との協議が必要と指摘した。対面交流加速のため、両国政府にビザ発給や往来における障害を取り除くことも求めた。

(2)に関しては、外資系企業の公平な取り扱いなどを規定した外商投資法の施行以降も規制の運用や解釈が公平になされておらず、外資系企業に対する内国民待遇が実現していないと指摘し、中央政府による明確な指導を要望した。

(3)については、ネガティブリストの記載分野が削減されている一方で公式・非公式の障壁が依然存在すると指摘したほか、一部の地域では集中購買調達において中国で生産する外資系企業の入札を認めているが、最終的な選定過程では競合する中国企業が優位になっていること、多くの地域や分野で外資系企業からの調達は認められないと政府機関からいわれた例があることを明らかにした上で、中国政府に対して非公式に、あるいは内部文書を通じて外国製の製品・サービスを国産に置き換えることをやめるよう求めた。

(注1)白書では、冒頭にビジネス環境に関する概要と前回建議した問題の改善状況評価について記載しているほか、第2パートでは産業政策・市場アクセスについて「市民社会」「競争法」「コンプライアンス」「税関と貿易」「政府調達」「ハイテク貿易と輸出管理」「人的資源」「知的財産権」「投資政策」「税務政策」「査証」の各章で、第3パートでは個別業種の問題について、「農業」「自動車」「銀行業および資本市場」「民間航空業」「直接販売」「教育」「エネルギー」「配達サービス」「食品・飲料」「医療」「情報通信技術」「保険」「法律サービス」「機械製造業」「メディア・娯楽」「不動産」「小売・電子商取引」「スポーツ」「旅行・ホテル業」「安全生産」の各章で、第4パートでは各地域の問題について、東北、上海、四川・西南、天津、武漢・華中の各章で記載している。

(注2)中国政府は科学技術の自立自強を掲げており、2022年12月の中央経済工作会議で示された2023年の経済政策の方針の中でも「科学技術政策は自立自強に焦点を当てる」との記述が盛り込まれている。

(注3)同調査は、2022年10~11月に実施された(2023年3月30日記事参照)。また、今回白書と同時に発表されたクイック調査(2023年4月18~20日実施)においても「米中関係の緊張の高まり」は62%で引き続き1位を維持しているほか、「地政学上のリスク」(40%)が2位となっている。

(注4)また、同調査においては、4分の3の企業が米中貿易摩擦の影響を受けており、その状況が悪化していると回答した。

(小宮昇平)

(中国、米国)

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