連邦政府、民間鉄道路線の一時的接収を命じる

(メキシコ)

メキシコ発

2023年05月22日

メキシコ連邦政府は5月19日、連邦官報で政令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布し、テワンテペック地峡開発プロジェクト(2022年7月14日記事参照)において、民間鉄道路線の一時的接収(注)を命じた。同プロジェクトは、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)現政権の4大インフラプロジェクトの1つだ。接収する路線は、ベラクルス州のメディアス・アグアス市からコアツァコアルコス港(Z路線)、イブエラス市からミナティトラン市(ZA路線)、エル・チャポ市からコアツァコアルコス港(FA路線)をつなぐ合計約120キロの路線。現在は、鉄道事業に加えて鉱山開発や映画館運営などを手掛ける財閥グルーポ・メヒコの傘下にあるフェロスールにコンセッションが与えられている。政令は、同路線の保全と公共輸送サービスが公共の利益に値すると宣言し(政令第1条)、国営企業テワンテペック地峡鉄道会社(FIT)に一時的に占有させることを命じた(第2条)。収用法に基づく補償の支払いは、テワンテペック地峡開発公社(CIIT)が責任を持つ(第3条)。

グルーポ・メヒコは5月19日、メキシコ証券取引所(BMV)への報告PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の中で、ZA路線が午前6時に海軍省の軍人により占拠されたとし、軍隊による驚くべき、ただごとではない占拠に対し、同グループは投資家や顧問とともに(対応策を)検討するとしている。

最高裁の違憲判決直後にテワンテペック地峡開発を国防や公共利益とする新政令を公布

メキシコの最高裁は前日の5月18日、国家情報アクセス院(INAI)が提訴した憲法訴訟に応え、AMLO大統領が2021年11月22日付官報で公布した行政命令を違憲とした。同行政命令は、連邦政府が進める優先的、戦略的インフラプロジェクトを「公共の利益と国防のためのプロジェクト」と宣言し、関連省庁に対し、申請から5営業日以内にプロジェクト実施の暫定許認可を付与する体制を整えるよう命じる内容だ(2021年11月24日記事参照)。最高裁は、曖昧な定義により国民の情報へのアクセスが法律ではなく行政命令により制限され、国民の知る権利を保証する独立自治機関であるINAIの権限も侵害されると判断した(最高裁プレスリリース5月18日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

同裁定が公開された直後、政府は同日夕刻の官報で政令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布し、マヤ観光鉄道(2020年5月25日記事参照)、テワンテペック地峡開発、パレンケ、チェトゥマル、トゥルムの3空港に関連した建設、運営、維持、関連インフラや資産、輸送サービス、拠点開発、車両などのすべてを国防および公共の利益に属するものと宣言した。2021年11月の同様の行政命令は最高裁により違憲と裁定されたが、今回の政令の公布は最高裁の裁定が正式に通知される前に行われた。収用法の第2-BIS条は、国による民間資産の一時的接収に先立ち、公共利益の宣言を行うことを求めている。

(注)収用法には、完全な収用(Expropiación)とは別に、一時的接収(Ocupación Temporal)という概念があり、所有権を完全に取り上げることなく、一時的に国の支配下に置く行為を指す。多くの州法では5年という期限が設定されているが、連邦法には明確な期限が定められていない。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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