米最高裁、経口妊娠中絶薬の使用許可を当面維持

(米国)

ニューヨーク発

2023年04月26日

米国の最高裁判所は4月21日、経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の使用許可の見直しにあたり審理が続く中、審理中は薬の流通を当面維持する判断を下した。

最高裁が2022年6月24日に、1973年の「ロー対ウェイド判決」を破棄してから(2022年6月27日記事参照)、これまで全米で認められていた女性のための人工妊娠中絶権が消失し、人工中絶に関わる法律は各州に委ねられることとなった。これを受け、ジョージア州やテキサス州など人工中絶に否定的な州においては、中絶禁止法が施行された(2022年7月22日記事参照)。ニューヨーク・タイムズ紙電子版によると、4月24日現在、全米の13州において人工中絶が全面的に禁止されている。

2022年11月18日には、人工中絶反対派のヒポクラティック医学同盟やキリスト教医科歯科協会などが、2000年に経口中絶薬を承認した米国食品医薬品局(FDA)をテキサス州地方裁判所に提訴PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。原告は経口中絶薬を禁止すべき理由として、手術による中絶よりも母体に合併症を引き起こす可能性が高いことを指摘している。2023年4月7日にテキサス州地方裁判所は、経口中絶薬の使用禁止を承認したが、司法省は同日、この判決を不服として強く反対外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますするとし、控訴するとともに差し止めを求める予定だとしていた。

また、利害関係者によるテキサス州の連邦裁判官の判決を非難する申立書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますには、大手製薬会社役員を多く含む500人以上が署名した。申立書は、過去数十年にわたる科学的証拠とFDAの権限を無視することは全ての医薬品の承認を危険にさらすとし、「もともとリスクが伴う新薬の発見と開発に対して規制の不確実を加えることは、投資の誘因を低下させ、われわれの産業を特徴づけるイノベーションを危険にさらすことになる」と述べている。

経口中絶薬「ミフェプレックス」は2000年に、そのジェネリック版「ミフェプリストン」は2019年に、FDAに承認された(注)。現在、使用には一定の資格を満たしたプログラムの承認を受けた医療従事者からの処方箋が必要となっている。FDAは2023年1月3日、「ミフェプリストン」を薬局で入手可能にするガイダンス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。これにともない、大手薬局店のウォルグリーンは、同店で入手可能にする手続きを始める予定だと発表していたものの、中絶反対派の共和党が優勢な州からの非難を懸念し、それらの州では、合法化されていても利用可能にはしないとした(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版1月13日)。この判断を受けて、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)は、ウォルグリーンとは取引しないと、自身のツイッターに投稿した。他方、ニューヨーク(NY)州のキャシー・ホークル知事(民主党)は3月9日、ウォルグリーン、CVSおよびライトエイドに対し、経口中絶薬をNY州で利用可能にするために、州内の認定を受けた店舗での調剤・販売や処方箋を有する患者への薬の郵送を約束するか、と回答を求める文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を送っている。

ホークルNY州知事は4月21日、最高裁の判断について、「バイデン政権と司法省の判断に敬意を表す」とした上で、「中絶反対派の過激派は、われわれが知る生殖医療ケアを完全に撲滅することを望んでいる」「NY州は生殖医療ケアを必要とする人の避難所であり続けることを保証する」との声明を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしている。

(注)「ミフェプリストン」(「ミフェプレックス」と「ミフェプリストン」の総称)は、もう1つの避妊薬「ミソプロストール」と併用される投与方法がとられている。

(吉田奈津絵)

(米国)

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