ACE、ASEANの水素の活用促進に向けた提言を公表

(ASEAN)

アジア大洋州課

2023年04月17日

ASEANエネルギーセンター(ACE、注1)は4月10日、ASEANの水素活用の現状や課題をまとめたレポート(Policy Brief/No.02/April 2023)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表した。今後のエネルギー需要拡大、各国の脱炭素目標の達成の観点から、水素活用の重要性に言及している。

同レポートは、エネルギー源として化石燃料への依存度が高いASEANでは、水素混焼により二酸化炭素(CO2)排出を抑えつつ化石燃料の利用が可能となるほか、水素普及により、化石燃料の輸入量低減にもつながると指摘。またASEANでは、グレー水素(注2)の生産が一部の国で見られるが、より低炭素なブルー/グリーン水素の開発強化が必要としている。同レポートにおけるASEANの水素活用促進への提言は以下のとおりだ。

  1. 電力、輸送、製鉄などにおける明確な水素戦略の策定、産業界の水素事業への参画促進が必要。現在、シンガポールが「水素国家戦略」を有するほか、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、タイで水素生産の動きがみられる(注3)。
  2. グレー水素、ブルー水素、グリーン水素へと段階を経た水素サプライチェーンの構築が必要。ASEANの課題として、水素関連インフラの未整備がある。この点、輸送距離や量、形態(圧縮水素、液化水素など)によるが、水素を既存の天然ガスのパイプラインで輸送することで、新たなインフラ開発コストを大幅に削減可能。
  3. 企業の水素開発を促す基金設立などが必要。基金導入には、アジア開発銀行(ADB)や世界銀行(WB)、日本の金融機関との連携可能性が考えられる。また、現在ASEANで生産されているグレー水素の価格低下と利用促進策が必要。
  4. 再生可能エネルギー由来のグリーン水素の普及には、電解槽(水素発生装置)や、再生可能エネルギーの普及が前提となる。それまで、グレー水素利用から発生する二酸化炭素(CO2)削減のため、CO2の回収・利用・貯留(CCUS)技術の開発強化が必要。

ACEは、現時点では水素利用の経済的メリットは限られるが、ASEANの脱炭素化に向け、水素利用は必須と指摘。また、今後、世界の水素需要拡大が見込まれる中、韓国や日本への輸出も視野に、ASEANは水素普及に向けた野心的な目標を設定すべきとまとめている。

(注1)ASEAN傘下にある国際機関。ASEAN各国のエネルギー管轄省庁やASEAN事務局と連携し、地域全体の持続可能なエネルギー戦略策定に向け、調査や情報提供、政策提言などを行う。

(注2)グレー水素は、化石燃料を原料とし、生成過程でCO2を放出。ブルー水素も、化石燃料を原料とするが、生産過程で発生するCO2を、炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)などで有効利用または地中に貯留。グリーン水素は、再生可能エネルギー由来の電力を利用、水を電気分解して生成され、製造過程でCO2を排出しない。

(注3)当該レポート公表時点の情報。ブルネイ、インドネシアではグレー水素、マレーシアはグレーとグリーン水素、タイはグリーン水素の生産ありとしている。

(田口裕介)

(ASEAN)

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