米ロ相互制裁で貿易額は半減、米USTR2023年外国貿易障壁報告書(ロシア編)

(米国、ロシア)

ニューヨーク発

2023年04月05日

米国通商代表部(USTR)は3月31日に公表した2023年版「外国貿易障壁報告書(NTE)」(2023年4月5日記事参照)で、ロシアのウクライナ侵攻以降の米ロ相互制裁の影響などに触れた。ロシア全体に13ページを充て、国・地域別では5番目に分量が多かった。

USTRはロシア編の冒頭部分で、ロシアによる2014年のウクライナ・クリミアの併合と2022年2月のウクライナへの全面的な侵攻に対する制裁の発動およびロシアからの報復措置を受けて、米ロ政府間の貿易・投資に関する協議はほぼ全面停止の事態に陥っていると総括した。米国はロシアによるウクライナ侵攻以降、G7諸国やEUと協調して、ロシアへの金融、エネルギー、防衛産業などを対象とした制裁や、正常貿易関係の撤回などかつてない規模の制裁を発動している(注1)。それら制裁の具体的な影響として、ロシアで事業を行っていた数百の米国企業が地政学リスクやレピュテーションリスクなどを受けて撤退・事業縮小したことや、両国間の貿易額が2021年の360億ドルから2022年には162億ドルまで半減したことを挙げている。USTRは、このように米ロ政府間の通商協議がほぼ停止している状況から、ロシアにおける貿易障壁を特定することは困難になっていると指摘している。よって、今回のNTEは、ロシアによるウクライナ侵攻が起きた2022年2月より前の状況を基にした内容となっている。

関税障壁に関しては、ロシアの平均的な関税譲許率はほぼWTO加盟国全体のそれと同等としている一方、国内税制で外国企業を差別しているとの懸念を示している。例えば、自動車その他車両のリサイクルに課している税制や、自動車のエンジンのサイズに応じた消費税の導入が、自国の産業保護を目的としていると指摘している。米国産業界からは、ロシアにおける技術関連の規制や、製品の試験・認証にかかる要求が主要な貿易障壁であることが指摘されたと紹介している。例えばロシアは、ユーラシア経済連合(EAEU、注2)の加盟国が承認している規制当局で、かつロシアに代表事務所を有する当局が発行した認証しか受け付けず、国際的に認められている米国食品医薬品局(FDA)の認証が通用しないことなどが懸念として挙げられている。

そのほか、USTRがNTEプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで懸念を示したデジタル規制については、ロシアが2020年までに導入したデータローカライズの規則が、データサービス企業に大きな負荷となっている点を指摘している。具体的には、電子的に収集したロシア市民の情報はロシア国内で加工・保存されなければならないことや、通信・インターネットプロバイダーによっては通信内容のデータを6カ月、そのメタデータは1年間かそれ以上、ロシア国内に保存する必要があることが挙げられている。

(注1)米国はG7諸国やEUと協調して、ロシアへの金融、エネルギー、防衛産業などを対象とした制裁や、正常貿易関係の撤回などの制裁を発動している。直近の制裁としては2023年2月に、ロシア産アルミ製品への関税引き上げを含む措置を発動している(2023年2月27日記事参照)。

(注2)2015年1月に発足した関税同盟で、現在、ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギスの5カ国が加盟している。

(磯部真一)

(米国、ロシア)

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