欧州食品小売り部門、2023年も厳しい見通し

(EU、英国)

ブリュッセル発

2023年04月25日

欧州の小売・卸売業界団体ユーロ・コマースは4月19日、欧州の食品小売り部門約50社の最高経営責任者(CEO)および欧州11カ国の約1万2,000人の消費者を対象とした調査に基づく2023年食品小売り報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

報告書は、市場の現状と今後の動向についての見解を示すため、米国マッキンゼー・アンド・カンパニーと共同で作成された。報告書によると、2022年は急激なインフレによって商品価格は前年比で10.7%上昇し、売上高は2.9%増となったが、販売量は3.6%減だった。価格に敏感な消費者が増え、各事業者のプライベートブランド(PB)商品が健闘し、PBが総売上高に占める割合は36.6%(前年比1.9ポイント増)となった。販売形態別では、ディスカウント店が人気を集め、収益は前年比9.8%増、新型コロナウイルス危機前の2019年比では22.6%増となった。オンライン販売の成長は多くの国で鈍化し、市場シェアはほぼ前年並みの6.1%だった。

2023年はインフレ緩和が予想され、消費者信頼感も回復しつつあるが、調査に応じた消費者は、53%が「食品への支出を減らす」、36%が「PB商品の購入を増やす」と回答した。企業側も、CEO(最高経営責任)の44%が市況は前年より悪化すると予測した。CEOに対する2023年の課題を問う質問(複数回答可)では、「利益率の改善」や「消費者の購入量の減少」のほか、「PB商品の強化」「価格帯の設定」「ディスカウント店との競争」などが上位に挙げられた。報告書は、2023年も利益率やキャッシュフローの悪化が続くと予想し、グリーン化やデジタル化への投資の遅滞を危惧した。

リテールメディアや生成AIといった新たなツールに注目

報告書で2023年の業界のトレンドとして挙げられたものに「リテールメディア(RM)」(注1)がある。2022年の欧州のRM市場は約100億ユーロ規模と米国の4分の1以下だが、2025年までに210億ユーロ規模まで拡大すると予測され、欧州の食品小売企業大手30社のうち18社はRMビジネスの拡大に着手している。

例えば、フランスのカルフールは広告代理店と提携し、小規模小売事業者向けのRMプラットフォームを展開する。RMは、小売事業者が持つ販売データの活用により、細かくターゲットを絞った広告が可能なため広告主の注目度が高く、小売事業者にとっても増収につながる有力な手段だとしている。

デジタル化関連では、物流倉庫のオートメーション化や、クラウドサービスや新規の分析ツールの活用に向けたITシステムの刷新にも大規模な投資が期待されている。報告書は、マーケティングや顧客サービスのツールとして生成AI(注2)も新たな価値創造につながると分析した。

(注1)小売事業者のECサイト上のオンライン広告や店舗のディスプレーなどに表示されるサイネージ広告など、小売業者が提供するさまざまなメディア。

(注2)文章や音声などさまざまなコンテンツを生成することのできる人工知能(AI)のこと。

(滝澤祥子)

(EU、英国)

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