小型EVメーカーのマイクロリノ共同創設者に聞く

(スイス)

ジュネーブ発

2023年03月20日

スイスのモビリティ企業マイクロリノ(Microlino外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は、3月からドイツで小型電気自動車(EV)「マイクロリノ」の販売を開始した。20世紀後半以降、スイス発の自動車メーカーがない状況が続いた中、新たに小型EVを生み出した同社の共同創設者メーリン・アウボーター氏に話を聞いた(2023227日)。同氏がコメントした内容は次のとおり。

コンパクトな折り畳み式スクーターでよく知られる家族経営企業マイクロ・モビリティ・システムズのグループ企業として、マイクロリノは2015年からEV開発計画を本格的に始動させ、2022年から製造を開始した。既に200台が最終消費者に納品されている。スクーターというマイクロモビリティに強みを持つ企業として、バイクと車の間のニッチセグメントを見つけようと模索する中で、1950年代に存在したバブルカーと呼ばれる小型車を復活させるデザインの構想に至った。2人乗りで、長距離走行用ではなく街中を走る通勤や買い物での利用を想定している。

写真 モダンなデザインのマイクロリノ「コンペティツィオーネ(COMPETIZIONE)」モデル(マイクロリノ提供)

モダンなデザインのマイクロリノ「コンペティツィオーネ(COMPETIZIONE)」モデル(マイクロリノ提供)

スイスでは、同社の小型EVLカテゴリーというバイクと同じ分類となり、ナンバープレートもバイクのものだ。バッテリーなしの重量は435キログラム、最高時速90キロ、バッテリーは6キロワット時(kWh)、10.5kWh14kWh3種類(航続距離はそれぞれ91キロ、177キロ、230キロ)。完全充電はわずか4時間で、オフィスや自宅での充電、スーパーマーケットなどで買い物中の公共充電器での充電が主に想定される。高速道路を走行できるかどうかは各国の規制によるが、スイスやドイツでは走行可能。通常のEVと比べて100キロ当たりの消費エネルギーは65%減、製造時のエネルギー使用量は従来型の車の6割減に抑えられている。製造はイタリア・トリノの工場で行っている。バッテリーはドイツのメーカーから調達し、バリューチェーンの9割を欧州が占める。

主な顧客層は、新しい製品を求めるアーリーアダプター(初期採用層)で、既に1台の自動車を保有しており2台目として購入する層。1台目の自動車としての購入は少ない。小型EVとしての市場参入の課題は、自動車市場は参入障壁が高く競争が激しいことに加え、同社のEVが規格上バイクに分類されるため、政府のEV購入インセンティブの対象に含まれないケースが多いことだ(例:ドイツ)。また、基本的な装備に一定のコストがかり、EVのサイズと販売価格は比例しないため、消費者は通常のサイズのEVの方に割安感を抱きやすいという消費者心理の課題もある。

現在はスイスのほか、ベルギー、ドイツで販売しており、2023年中にフランス、イタリア、オランダ、ギリシャなどへも販路を拡大予定。ベルギーのパートナーはフォルクスワーゲン(VW)の輸入代理店でもあるが、マイクロリノはVWの直接的な競合にはならないと考えている。現在、予約は35,000件入っており、将来的には年間5万台の販売を見込む。アジア市場については、将来的な展開を検討している。そのためデザイン時には、日本の軽自動車の基準を満たすように意識した。プレミアムな価格帯の小型EVは、日本の消費者に受け入れられると考えている。

(深谷薫、マリオ・マルケジニ)

(スイス)

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