欧州委の研究機関、戦略的技術と原材料の相関関係を分析、中国依存のリスク指摘

(EU、中国)

ブリュッセル発

2023年03月28日

欧州委員会の共同研究センター(JRC)は3月16日、EUの戦略的な技術と分野におけるサプライチェーン分析と原材料の需要予測に関する報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。同報告書は、欧州委が発表した重要原材料の安定的かつ持続可能な供給の確保に向けた規制枠組み規則案(2023年3月22日記事参照)を科学的根拠から支えるものとなる。報告書の中では、EUの5つの戦略的分野(再生可能エネルギー、Eモビリティ、産業、デジタル、航空宇宙・防衛)の15の主要技術(添付資料表参照)を特定。各技術のサプライチェーン全体で87の原材料に対する依存関係を分析し、EUとその他の国・地域における2050年までの原材料の需要予測を考慮して、現在と将来におけるEUの課題を示した。

サプライチェーンにおける原材料の分析では、87の原材料のうちアルミニウムが主要技術に最も多く使用され、15技術全てで必要だった。次いで、銅、ニッケル、金属ケイ素(ともに14技術)、マンガン(13技術)となった。また、再生可能エネルギー分野の技術が戦略的原材料を最も多く必要とするとした。

サプライチェーンの分析では、主要技術の全サプライチェーンの上流で脆弱(ぜいじゃく)性が示された一方で、下流に行くにしたがって脆弱性は低下し、最終段階(組み立て、最終製品、システム)では、7技術〔(1)電解槽、(2)風力タービン、(3)トラクションモーター(注)、(4)ヒートポンプ、(5)付加製造技術(3Dプリンタ)、(6)ロボティクス、(7)宇宙ロケット、人工衛星〕で脆弱性が解消された。

同報告書では、サプライチェーンの最終段階の世界生産に占めるEUの割合は平均28%(市場の制約により国内生産が強化されている宇宙技術を除くと20%)とするも、上流工程では必要な材料や部品を安価で安定的に確保するための取り組みが必要とした。さらに、5技術〔(1)リチウムイオンバッテリー、(2)太陽光発電、(3)データストレージ、サーバー、(4)スマートフォン、タブレット、ラップトップ、(5)ドローン〕はサプライチェーン全体にわたって脆弱性を示し、最終製品の段階でもEUの依存性があることを示した。

重要原材料の需要予測では、数十年で大きな成長が見込まれるEモビリティ関連産業や、材料集約的な再生可能エネルギー産業で、戦略的かつ重要な材料に対する需要がかつてないほど増加すると見通している。

これらの分析を踏まえて、同報告書では以下のような課題と提言を示した。

  • EUは、主要技術のあらゆるバリューチェーンで、原材料を第三国、特に中国からの輸入に大きく依存しており、需要拡大や原材料確保のための世界的な競争と合わせると、環境や地政学的なリスクを高めている。一方で、信頼できる国からの供給を多様化するなどの代替案は実現が難しい。
  • 原材料の新規採掘と加工には時間がかかる一方、リサイクルは十分な量の確保を前提にしているとして、一部の技術は2030年までに実現しない可能性。
  • 先端材料や代替技術、原材料の効率的な使用に焦点を当てた技術革新の重要性。
  • リスクの軽減と管理のために、EUが戦略的で重要な原材料のサプライチェーンを継続して注視していく必要性。

(注)電気自動車やハイブリッドカー、鉄道車両などを駆動する電動機。

(大中登紀子)

(EU、中国)

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