鉄鋼大手テルニウム、22億ドルの北米域内投資を発表、USMCA原産地規則とニアショアリングを考慮

(メキシコ、米国、カナダ)

メキシコ発

2023年02月20日

イタリアとアルゼンチンに本拠を置く鉄鋼大手テルニウムは2月15日、北米(カナダ、米国、メキシコ)域内で22億ドルを投じ、電気アーク炉(EAF)の製鉄所を建設する計画を発表した(同社プレスリリース2023年2月15日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。新製鉄所の建設目的は、同社がヌエボレオン州ペスケリア市にもつ熱間圧延鋼板工場(熱延ミル)を補完し、支援することだ。新製鉄所の溶鋼生産量は年間260万トンを計画し、年間210万トンの能力を持つ直接還元鉄(DRI)生産ユニットも併設する。2026年前半の生産開始を計画しているが、具体的立地については発表していない。

テルニウムのマクシモ・ベドヤ最高経営責任者(CEO)は「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)発効と昨今の鋼材バリューチェーンにおけるニアショアリングの傾向によって、北米地域は継続的な投資をする上で魅力的な地域になった」と語り、USMCAや、生産拠点を消費地の近隣国に移転するニアショアリングが北米における追加投資の背景にあることを明らかにした。また、記者会見での発言の中で、DRIユニットに二酸化炭素(CO2)回収装置を設置すること、DRIに用いる還元性ガスを天然ガスから水素に代替することも視野に入れているとした(「レフォルマ」紙2023年2月15日)。テルニウムはこれらの対策により、2030年にCO2排出を現行の20%削減という目標の達成を目指すとしている。

USMCAの鉄・アルミ要件に対応した投資

今回の投資計画の背景には、USMCAでの完成車(大型バスやディーゼルエンジン車両などを除く)の原産地規則が2027年7月1日から厳格化されることがある。厳格化されるのは、完成車が北米原産品となるための4つの要件(2019年5月8日付地域・分析レポート参照)のうち、「鉄・アルミ要件」と呼ばれる要件で、完成車メーカーが購入する鉄とアルミニウムの7割以上が北米原産でなければならないというルール。鉄・アルミ要件は、2019年12月に締結された追加議定書に基づき、2027年7月以降、鋼材に関する原産性の判断が厳格化される(2019年12月11日記事参照)。

現時点では、USMCAの品目別原産地規則(PSR、Annex 4-B)に基づき、鋼材が北米原産となるためには、炭素鋼については最初の圧延工程(熱間圧延工程)から、特殊鋼についてはスラブやビレットなど中間材料の鋳造工程から、それぞれ域内で行われる必要がある。2027年7月以降は、鉄・アルミ要件の観点では(注)、炭素鋼、特殊鋼の違いにかかわらず、域内で最初の鋳造工程から行われる必要があるため、スラブやビレットが域外産だとUSMCA原産にならない。北米域内における自動車産業向けスラブやビレットの供給能力は、現時点で不足しているため、域内における高炉や電気アーク炉 (EAF)などの増設が必要になる。

テルニウムは、ペスケリア市に自動車グレードの最新世代熱延ミルを持つため、現時点では炭素鋼材については、たとえブラジル製スラブを用いても製造された鋼板が北米原産となる。しかし、2027年7月以降は域内のスラブやビレットを炭素鋼でも使用する必要があるため、今回のEAF増設は、USMCA原産鋼板を安定供給する観点で重要な意味を持つ。

(注)厳格化されるのはあくまで、完成車の北米産を判断する要件の1つ「鉄・アルミ要件」の観点で、USMCAの品目別原産地規則(PSR)自体は変更されない。つまり、自動車部品メーカーが鋼材を調達する際などは、完成車の鉄・アルミ要件とは関係がないため、その原産性を判断する基準としては、2027年7月以降も炭素鋼が最初の圧延工程から、特殊鋼が最初の鋳造工程から域内で行われることが北米原産の要件となる。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国、カナダ)

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