マリーナ・シルバ環境・気候変動相が就任、アマゾン基金のガバナンス強化による森林保全に着手

(ブラジル)

サンパウロ発

2023年01月12日

ブラジルで1月1日に就任したルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領の環境・気候変動相に、マリーナ・シルバ氏が1月4日に就任した。新政権は従来の環境省という名称に「気候変動」を加えることで、地球規模の気候変動課題に取り組むメッセージを打ち出した。

シルバ環境・気候変動相は、2003~2008年のルーラ政権下で環境相を務めた経験がある。1996年には環境保護に功績のあった草の根の運動家に与えられる国際賞であるゴールドマン環境賞を受賞したほか、2007年には多様な生物が存在するアマゾンの保護や森林破壊の減少などに貢献したことを評価され、国連環境計画(UNEP)からラテンアメリカ・カリブ海地域のチャンピオン・オブ・ジ・アースとして表彰されている。

シルバ環境・気候変動相は就任演説で、パリ協定での約束を尊重し、森林伐採から起因する二酸化炭素(CO2)排出量の増加を危惧しており、環境分野のガバナンスを見直す必要があるとした。環境分野のビジネスに関しては、省内にバイオエコノミー局を設立することを明らかにした。ブラジルは環境分野に潜在力があり、長年蓄積した生物多様性に関する豊富な知識を生かして持続可能な投資を呼び込み、収入、雇用、外貨を稼ぐ意向を示した。

また、シルバ環境・気候変動相は、数カ月以内に気候安全保障に関する国家機関の設立を進めるとともに、気候変動に関する全国評議会を組成し、大統領を筆頭に省庁や州、市、社会団体などを巻き込むと述べた。シルバ環境・気候変動相は環境分野をセクターや地域横断的な問題と捉え、気候安全保障に関する国家機関は政府の気候変動対策を講じ、実行するためのサポート役と位置付け、同時にセクター別の政策や目標に関する行動を規制・監視することで気候変動に対応していくと説明した。

「アマゾン基金」復活を定めた政令を発効

ルーラ新政権下で環境・気候変動省は、法定アマゾン保護のための「アマゾン基金」のガバナンスを強化すべく、ブラジル経済社会開発銀行(BNDES)を通じた「アマゾン基金」への寄付金の公募や証明書の発行などの運用を規定した1月2日付政令11.368号に署名した。同政令では、前政権で廃止されていたアマゾン基金運営委員会(COFA)とアマゾン基金技術委員会(CTFA)の復活を定めた規定が含まれている。COFAは、アマゾン基金の資金の利用にあたり、利用情報をフォローし、活動報告書を承認する方針や基準を定める役割がある。CTFAは、森林破壊面積とそれによって失われるCO2排出量を測定する方法論を定め、証明する役割がある。

こうした動きは、ブラジルが気候変動や環境問題について国際社会から批判を受ける立場から、主体的に貢献する立場へ変化させる可能性がある。一方、ブラジルの主要産業の1つである農業分野からは懸念もでている。1月10日付の農業系現地紙「ノチシアス・アグリコラス」によれば、農牧畜業者らを支持基盤に持つ議員団体である農牧畜系議員前線(FPA)のペドロ・ルピオン代表〔下院議員、進歩党(PP)・パラナ州〕はシルバ氏について、技術的・論理的な議論よりも概念的な(イデオロギーに関する)議論が優先されると捉えている旨をコメントしており、農牧畜業者との間でどのような対話や協力がなされていくのかが注目されている。

(古木勇生)

(ブラジル)

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