米SEC、資産担保証券に関する規制強化案を発表

(米国)

ニューヨーク発

2023年01月31日

米国証券取引委員会(SEC)は1月25日、住宅など資産を担保とした証券(Asset Backed Securities:ABS)について、発行企業などに対して、価格下落を助長する行為など投資家の利益に反する取引を禁止する規制案を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。規制案へのパブリックコメントは、SECのウェブサイトでの公開後60 日間、または官報公開後30日間のいずれか長い期間で募集される。1月30日現在ではまだパブリックコメントは開始されていない。

ABSは、住宅ローンなど貸付金銭債権の資産を裏付けに発行される証券の総称。企業などが保有する資産を特別目的会社(SPC)に売却し、SPCはその資産を担保に証券を発行し、投資家に販売する。証券を発行した企業は債権の返済期限前に資金回収が可能となり、投資家は利息収入が得られる。双方にリスクが分散されるというメリットがあるが、2007年に発生したサブプライムローン問題は低所得者向け住宅ローンの証券化により、リスクが過度に拡散したことが発生の一因とされている。

規制案では、ABSの募集代理人やスポンサー(企業の関連会社や子会社を含む)などが、投資家との間で重大な利益相反が生じるような取引に直接・間接的に関わることを禁止する。利益に相反する取引とは、例えばABSの空売り(注1)や、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS、注2)の組成などが該当する。こうした取引の禁止期間は、関係者でABS組成が合意された日、またはそのための実質的な措置を講じた日から開始され、当該ABSの最初の売却が完了した日から1年後に終了するとされている。ただし、規制案はマーケットメーキング(注3)やリスクヘッジ取引(注4)には適用されず、住宅ローン担保証券(Mortgage Backed Securities: MBS)の発行に関与する政府系住宅金融機関(GSE)の連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)や連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)は規制対象から除外される。

ABSに関連した投資家の利益に反する取引については、SECは過去にも問題視しており、2010年にはゴールドマン・サックスに対して、住宅市場の下落を見越してヘッジファンドが組成したMBSをあえて販売して顧客を欺いたとして、SECに5億5,000万ドルの和解金を支払わせている。2011年には、今回同様の規制案を提案したが、今回は除外したマーケットメイキングやリスクヘッジ取引なども禁止しようとしたため、金融業界からリスク管理が制限されるという批判があり成立しなかった。(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版1月25日)。ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長は声明で、(今回の規則案は「2008年の金融危機の原因となった証券市場の利益相反に対処すべきという議会の使命を果たす」と述べた。

(注1)株式を証券会社などから借りていったん売り、決済までにその株式を市場で買い戻すとともに証券会社に返却する取引で、売却時よりも買い戻しの価格が低ければ利益が出る。

(注2)破綻リスクを売買するデリバティブ(金融派生商品)で、買い手は売り手に手数料を支払う一方、投資先がデフォルトすれば売り手が買い手に保険金を支払う。

(注3)取引所指定の証券会社などが、「売り」「買い」の価格を提示する行為。

(注4)現物株式の価格変動リスクを回避・軽減するために、先物取引において現物株式と反対のポジションをとる行為。

(宮野慶太)

(米国)

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