タイ製造業、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)への対応が急務に

(タイ、EU)

バンコク発

2023年01月12日

EUで炭素国境調整メカニズム(CBAM)の設置に関する規則案に関して、暫定的な政治合意に達したことを受け(2022年12月14日記事参照)、タイ商務省貿易交渉局(DTN)は2022年12月29日、CBAMの対象製品を扱うタイの事業者に対し、報告義務対象となる生産工程における温室効果ガス(GHG)排出量の算定など、対応準備を進めるよう呼びかけた。

CBAMの対象となるのは、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力のほか、水素や、ネジやボルトなど一部の川下製品、間接的なGHG排出(EUに輸入される製品の生産に使用する電力の発電時に生じるGHG)と幅広い。2023年10月1日から適用され、2025年12月31日までを移行期間とする。対象製品をEUに輸入する者は、まず輸入に伴うGHG排出量を報告する義務を負う。2026年1月1日からは、タイなど生産国側でのGHG排出量を補償するため、CBAM証書を購入することが義務付けられる。

DTNのオラモン・サッタウィータム局長は「将来的なCBAM証書の購入コストを低減するためにも、タイの事業者においては低炭素型の生産工程やクリーンな再生可能エネルギーの使用に移行する必要がある」とする。DTNの2022年12月9日の発表によると、EUの炭素価格は1トン当たり約85ユーロが想定されており、事業全体を通してのGHG排出量を調べるカーボンフットプリント評価をするため、タイ企業に十分な準備を求めた。また、タイ商務省としては、天然資源環境省、タイ温室効果ガス管理機構(TGO)、法制委員会事務局などと協力し、国際標準でのGHG管理システムを策定していくと予定だ。

TGOのキアチャイ・マイトリウォング事務局長はCBAMに関し、「タイの輸出業者への影響は避けられない。手続き上の課題に対応できるよう、留意が必要だ」と述べた(「タイ・ポスト」紙2023年1月4日)。同事務局長は、特に留意すべき品目として、タイのOEM企業が製造した鉄鋼・アルミニウム製品を挙げた。また、CBAMの対象が拡大し、石油化学製品(プラスチックペレットやポリマー)などが加わった場合、タイへの影響は増大するリスクもある。また、将来的にASEAN各国などがCBAMと同様の措置を採用した場合、ASEANを主要輸出市場とするセメント産業に影響する可能性がある点を指摘した。

タイの大手調査会社カシコン・リサーチ・センターは、同社の2022年12月21日付レポートにおいて、「CBAMの対象産業に関しては、タイにとってEUは主要な輸出市場ではない」としつつも、「EU内の顧客基盤を維持するためにも、CBAM措置への準拠を加速する必要がある」とした。また、他国でもEUと同様の措置が実施される可能性があり(注)、そうした事態への準備にもなる、と前向きに捉える言及もあった。

(注)タイの最大の輸出先である米国においても、炭素税が検討されている。

(北見創、シリンポーン・パックピンペット)

(タイ、EU)

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