WEF、ダボス会議の議題としてエネルギー転換のカギ握る中南米リチウム資源開発課題を公表

(中南米、世界)

米州課

2023年01月20日

世界経済フォーラム(WEF)は1月16日に開幕したダボス会議の議題として「リチウム:ラテンアメリカが世界のエネルギー転換のカギを握る理由外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を1月10日に公表した。

これによると、世界のリチウム確認埋蔵量(8,900万トン、注)の6割弱は中南米域内が占め、特にボリビア(世界全体の23%)、アルゼンチン(21%)、チリ(11%)のアンデス山域で「リチウムトライアングル」が形成されている。メキシコ(2%)、ペルー(1%)、ブラジル(0.5%)でもリチウム資源が確認されている。国際エネルギー機関(IEA)によると、今後も風力や太陽光などの再生可能エネルギーや電気自動車(EV)にエネルギーを蓄えるリチウムイオン電池の需要が拡大し、リチウムの需要は2040年までに40倍に成長すると予測している。

課題は大量の水確保と商業生産可能な投資環境の改善

IEAは2030年以降、初期寿命を終えたEVバッテリーが急増すると予想している。WEFのレポート「2030年への持続可能なバッテリーバリューチェーンのビジョンPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」によると、使用済みEVバッテリーの54%がリサイクルされ、EVバッテリーに使用する原材料の7%をカバーできると予測している。残り93%は天然資源で賄うことになり、今後のリチウムイオン電池生産もリチウム採掘資源の供給が欠かせないことになる。

ところが、中南米ではリチウム採掘に大量の水を消費するため、WEFは持続可能な採掘に懸念があると警告している。炭酸リチウムの抽出には塩原に穴を開け、ミネラルが豊富な塩水を地表にくみ上げる。さらに、水を一度に数カ月蒸発させ、カリウム、マンガン、ホウ砂、リチウム塩の混合物をろ過して蒸発を繰り返す。リチウムトライアングルは地球上で最も乾燥した地域の1つだが、12~18カ月のろ過工程で大量の水が必要となる。

WEFによると、炭酸リチウムの抽出には1トン当たり220万リットルが必要で、脆弱(ぜいじゃく)な生態系を持つ塩原地域で深刻な水不足の問題を引き起こしている。それへの対応として、米国リチウムメーカーのリベントによる植え替えや新たな灌漑システムを通じて谷を復元するプログラムの事例を紹介している。

第2の課題は、リチウム生産ではチリが商業生産をリードしており、地理的条件や投資環境が不利なボリビアやアルゼンチンでの生産が遅れをとっている点を指摘している。米国を除く世界の2021年時点のリチウム生産量(推定、注)は約10万トンで、最大の生産国はオーストラリア(全体の55%)、次いでチリ(26%)、中国(14%)と続き、アルゼンチンでは6%となっている。

(注)WEF公表資料の数値を米地質研究所(USGS)「U.S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries 2022年版PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)の数値に改定。

(大久保敦)

(中南米、世界)

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