海外事業の意欲は後退、リスク耐性強化へ模索続く、2022年度日本企業の海外展開調査

(世界)

国際経済課

2023年01月31日

ジェトロは1月31日、「2022年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」の結果を発表した。調査は2022年11月17日~12月20日、海外ビジネスに高い関心を有する日本企業(注1)を対象に実施し、3,118社から回答を得た(うち中小企業2,652社)。

世界市場の混乱で、輸出や投資の拡大意欲に陰り

2022年の輸出見通し(数量ベース)について、回答企業の約半数に当たる49.0%が2021年比で「増加する」と回答した。増加見通しの要因として、「輸出先需要の変化(63.7%)」「為替変動(円安)(43.6%)」が上位となった。最も重視する輸出市場は2021年に続き中国が1位となったものの、その割合は23.1%と前年の27.8%から4.7ポイント減少した。調査期間(11~12月)のほとんどが、中国のゼロコロナ政策の緩和前に重なっており、同国の市場環境の不透明感を反映した結果となった。

輸出企業の今後3カ年度の輸出拡大方針について、「拡大」は73.4%と2021年度調査(84.7%)から大きく減少した一方、「現状維持」が23.5%と9.8ポイント増となった。輸出先の市況の変化、供給制約や調達・輸送コストの増加が、企業の輸出意欲、輸出余力を押し下げている。また、輸出していない企業が「今後、新たに取り組みたい」と回答した割合も減少した(33.5%→20.9%)。その理由として、新型コロナウイルス感染拡大やウクライナ情勢の影響(一般機械)、為替や相手国インフレなどの経済要因(商社・卸売り)、半導体不足により電子部品が入荷しない(精密機器)といった声があげられている。

海外での事業拡大意欲についても、すでに海外拠点を持つ企業で「さらに拡大を図る」と回答した企業は43.5%と、過去最低の水準に低下した。他方、円安や物価高、金利上昇などの事業環境の変化、ゼロコロナ政策などの制約要因を受け、当面は「現状維持」(海外拠点あり:49.1%、海外拠点なし:51.0%)とする企業が増加している。

物価高、円安、輸送の混乱が促すサプライチェーン再構築

新型コロナウイルスの感染拡大を機に露呈したグローバルサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性は、物価高や円安、国際輸送の混乱などの負の要因と重なり、さらに深刻な問題となっている。その中で、企業はサプライチェーンの再構築の必要性を強く認識している。本調査で海外に拠点を有する企業のうち、海外事業の一部を国内へ移管、同検討中とした企業は12.9%となった。移管の背景に、59.0%が「進出先のビジネスコストの増加」、製造業の40.5%が「国際輸送の混乱・物流費の高騰」を指摘した。

原材料・部品の供給不足感があると回答した企業は5割を超えた(50.4%)。一般機械(83.0%)、精密機器(82.3%)、電気機械(82.1%)の機械類3業種はいずれも8割超えとなった。供給不足感は直近1年で悪化しており、調査期間(11~12月)の前年同期と比べると、鉄鋼を除く全ての業種で「悪化している」が「改善している」を上回った。対応策として、調達先の多角化(47.5%)や代替品への変更(36.9%)が上位となった。

経営課題は持続可能なビジネスへの移行、先行する脱炭素化

市場・社会の意識変化、地政学リスクなどの新たなグローバル課題に対し、69.5%の企業が、ビジネス変革の必要性を認識していると回答した。企業統治の観点では「SDGsを見据えた社内体制構築(44.3%)」が、課題に対応した新規ビジネスの観点では「SDGsを見据えた新規事業領域の開拓(32.7%)」がそれぞれ最多となり、持続可能なビジネスへの移行をグローバルビジネスに関する経営課題と捉えていることがうかがえる結果となった。

中でも、脱炭素化への取り組みは着実に進んでいる。国内における脱炭素化への取り組み状況は大企業の78.4%が「すでに取り組んでいる」と回答。中小企業は38.5%と大企業の半分以下となったが、「今後取り組む予定」を合わせると69.1%と、約7割が脱炭素化の取り組みに関心を示している。また、回答者のうち、前年調査から継続して回答している企業に絞ると、「すでに取り組んでいる」割合がこの1年で9.1ポイント増加していることから、この1年間で着実に取り組みが進んでいることがうかがえる。

他方、人権尊重方針について、策定済みまたは意欲がある企業は71.2%となったが、策定済み企業は全体の32.9%にとどまった。同様に、人権デューディリジェンス(注2、以下人権DD)を実施済みまたは実施に意欲を示す企業は全体の53.8%も、実施している企業は全体の10.6%にとどまった。取り組み上の課題について、人権DDを実施予定・検討中の企業は「具体的な取り組み方法がわからない(40.4%)」、同実施済み企業は「1社だけでは解決できない複雑な問題がある(32.8%)」がそれぞれ最も多く指摘されており、取り組むべき課題として重要性を認識しつつも、実務上のハードルが高い状況下にあること示された。

(注1)ジェトロ会員企業およびジェトロサービスの利用実績のある日本企業(国内本社)、計9,377社を対象に実施。

(注2)自社やサプライチェーンを通じて生じ得る人権への負の影響を特定、停止、防止、軽減し、救済するための継続的なプロセスのこと。

(渡邉敬士)

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