WTO紛争解決の暫定上訴制度、初の仲裁判断を公表

(EU、世界、コロンビア)

ブリュッセル発

2022年12月23日

欧州委員会は12月21日、「WTO紛争解決了解(DSU)第25条に基づく暫定的な多国間上訴制度(MPIA:Multi-party Interim Appeal Arbitration Arrangement)」(以下、暫定上訴制度)に基づく初めての仲裁判断が公表されたことを受けたEUの見解を示した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。暫定上訴制度は、WTO紛争解決制度の上級審である上級委員会が現在機能停止していることから、有志のWTO加盟国・地域間で2020年4月に適用開始したものだ(2020年5月1日記事参照)。

この紛争では、コロンビアによるEU産冷凍ポテトフライへのアンチダンピング措置の問題点に関し、EUが2019年11月にWTO提訴していた。新型コロナウイルス感染拡大による移動制限などを要因にWTOの紛争解決小委員会(パネル)手続きが遅れたものの、2022年10月にパネルは第一審としての報告書を公表。コロンビアは、報告書による同国のアンチダンピング制度に対する法的解釈の一部を不服として上訴を申し立て、直ちに両者の合意に基づき暫定上訴制度の利用に進んでいた。3人の仲裁人決定から2カ月程度と比較的短期で仲裁判断に至った。

欧州委は、仲裁判断によって4つの論点のうち3点でEUの主張が認められ、「実質的に勝訴」し、ベルギー、ドイツ、オランダ産の冷凍ポテトフライへのアンチダンピング措置のWTO違反が確定したとの立場を示した。EUとしては内容以上に、暫定上訴制度による初の判断となった今回、WTO紛争においてパネル報告が機能停止中の上級委員会に上訴されることで実質的に無効化される事態を回避できることが示された点を重視している。また、従来の上級委員会に対しては判断に時間がかかりすぎるとの批判があるのに対し、暫定上訴制度では紛争の解決に必要な法的論点の解釈に限定して審理を行うなど手続き的な改良の結果、短期間での判断が可能になったことも指摘した。

暫定上訴制度には現在、WTO164加盟国・地域中、52カ国・地域が参加(注)。欧州委によれば、同制度の適用開始以降のWTO紛争のうち、3分の1以上が制度参加国・地域間の紛争だ。欧州委のバルディス・ドムブロフスキス執行副委員長(経済総括、通商担当)は「EUとコロンビアは暫定上訴制度を通じて、拘束力があり独立した二審制の司法判断による貿易紛争解決の重要性を示した。同制度はWTO上級委員会が機能しない間、その役割を埋める有効な手段だ」と述べ、同制度の意義と効果を強調した。

(注)EUおよび27加盟国とコロンビアのほか、オーストラリア、ベナン、ブラジル、カナダ、中国、チリ、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、香港、アイスランド、マカオ、メキシコ、モンテネグロ、ニュージーランド、ニカラグア、ノルウェー、パキスタン、ペルー、シンガポール、スイス、ウクライナ、ウルグアイ。

(安田啓)

(EU、世界、コロンビア)

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