アンワル新内閣発足、首相が閣僚名簿発表

(マレーシア)

クアラルンプール発

2022年12月05日

マレーシアのアンワル・イブラヒム新首相(2022年11月25日記事参照)は、122日に閣僚人事を発表し、翌3日に全閣僚が王宮で宣誓を行った。首相を含む閣僚ポストは28人で(添付資料表参照)、前イスマイル・サブリ政権時の32人から縮小した。4人いた上級相は置かず、副首相を2人任命した。また、一部省庁の名称や管轄に変更もあった。副大臣は追って指名される。

閣僚数を削減、省庁名の変更も

新内閣は、歴史的に見てもコンパクトな規模だ。最終的な閣僚数が20人だった、初代首相アブドゥル・ラーマン政権以降、閣僚数は増加する傾向にあった。歴代最多は、ナジブ・ラザク内閣の37人だった(スター122日)。アンワル首相は組閣前から、経費削減のために内閣をスリム化する意向を示していた。

政党連合別の構成では、アンワル首相が率いる希望連盟(PH)の閣僚が15人と過半数を占め、次いでPHとともに与党連合を構成する国民戦線(BN)が6人、サラワク政党連合(GPS)が5人と続く。BNからはアフマド・ザヒド元副首相、GPSからはファディラ・ユソフ前公共事業相兼上級相が、それぞれ副首相に起用された。女性閣僚は、前政権と同じ5人だ。

政権運営の要となる財務相はアンワル首相が兼任する。同氏は、マハティール政権下の1991年から1998年まで財務相を務めた。直近ではナジブ元首相も、2018年まで財務相を兼任していた。前財務相であるザフルル・アジズ氏は、先の第15回下院総選挙でクアラ・セランゴール州の議席を失ったが、国際貿易産業(MITI)相として復帰する。同氏は閣僚就任に先立ち、同様に政治任用された他の3大臣とともに123日に上院議員となった。

省庁名の一部変更もあった。内閣規模の縮小に伴うもので、一部名称が短縮されたほか、各省の管轄がより広範になるよう用語が追加・変更された例もある。例えば、通信・マルチメディア省はデジタル通信省へ、農業・食糧産業省は農業・食糧安全保障省へ、環境・水省は天然資源・環境・気候変動省へ、足元の諸問題をより反映した名称へ改名された。また、首相府下の担当相が経済問題を管轄した前政権と異なり、首相府から独立した経済省を置く一方、従来の地域開発省と連邦直轄地相を統合し地方地域開発省とした。

内閣のバランスを評価する一方、清廉な政策運営に対する厳しい目線

報道によれば、新内閣は閣僚の専門性と政治的配慮とのバランスをうまく取った点が評価されている。新型コロナ禍で財政相を務めたザフルル氏や運輸相経験のあるアンソニー・ローク氏の起用、東マレーシア出身者7人の入閣、保健や青年・スポーツといった人的資本に関わるポストへの女性閣僚配置などは好意的に捉えられた。経済面では、財務省が生活費や物価上昇などの国内問題、MITIが質の高い投資の誘致、経済省が金融改革や省庁間の調整を担うなど、適切な役割分担が重要との指摘もあった(NST123日)。

他方で、汚職裁判を抱えるザヒド氏の副首相起用や、権力集中につながりかねない首相と財務相の兼務は、野党連合の国民同盟(PN)や一部専門家から批判を呼んでいる。ASEAN加盟国の議員から成るASEAN人権議員連盟も「新政権は社会正義、平等、清潔な統治の実現に取り組むべき」と強調した。クリーンな政治を期待しPHに投票した有権者に応えるためにも、透明性のある政権運営が求められそうだ。

(吾郷伊都子)

(マレーシア)

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