欧州製薬業界、欧州でのバイオ医薬品関連投資の低迷に警鐘を鳴らす

(EU)

ブリュッセル発

2022年11月08日

欧州製薬団体連合会(EFPIA)は11月7日、欧州(EU、英国およびスイス)と世界の主要国のバイオ医薬品(注1)への投資状況を比較し、EUおよび各国政府への提言をまとめた報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を公表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。世界のバイオ医薬品研究開発投資の地域別シェアをみると、欧州は2001年には41%だったが、2020年は31%まで低下。米国と欧州の研究開発投資額の差は、2002年の約20億ドルから2020年は約200億ドルに広がった。また、中国も研究拠点の開設や臨床試験の実施を増やして、医薬品の生産能力を拡大し、急速に競争力をつけてきた。EFPIAは特に先端医療医薬品(ATMP、注2)について、米国、中国では欧州の2~3倍の臨床試験が行われており、年々、大きく水をあけられている現状に強い危機感を示した。

また、今後ますます増加するとされるデジタル技術を活用した治験やバーチャル治験(注3)についても、米国が欧州に対してデジタルインフラでは圧倒的に優位に立っており、欧州の医薬品分野の先進国(ドイツ、ベルギー、アイルランド)でさえデジタル競争力が国際レベルでは低いと指摘し、欧州のデジタル化の遅れに懸念を示した。

EFPIAはこうした地域間の比較などを基に、(1)イノベーションの促進に向けた戦略的な投資、(2)デジタル技術の活用も含め、医薬品の実用化促進に向けた環境づくり、(3)長期的な展望に立った製薬関連の政策立案、の3分野について7項目の政策提言を行った。

「研究成果は多いが、生産施設は少ない」欧州、横断的な支援が必要と指摘

「戦略的な投資」については、米国では世界的に著名な学術機関が集まる都市の研究センターなどに的を絞って、公的な研究助成を行う傾向があるが、EUでは全ての加盟国に平等に助成する傾向があり、EUにおいても世界的な研究センターの創出に向けて、より戦略的に関連予算を分配することを検討すべきだとした。また、米国や中国では新興企業が多く誕生し、投資によって成長軌道に乗り続けているが、欧州発の新興企業は両国と比較するとそれほど多くない。既存の研究施設に投資するだけではなく、EUは中小企業支援により力を入れるべきだとした。

「医薬品の実用化促進」に関しては、例えば、欧州の研究機関によるATMP関連の発表論文数は米国、中国をしのぐが、欧州にある生産拠点は圧倒的に少ない。EFPIAは、EUの縦割り的な政策も一因だとして、EUは研究開発、生産と臨床試験という創薬エコシステム全体を横断的に支援し、ATMP産業クラスターの育成に積極的に取り組むべきだとした。また、デジタル化促進に向けて、研究者のデジタル技術についてのアップスキリングや保健システムのデジタル化の加速に取り組むべきだとした。

「長期的な展望に基づく政策」については、新薬の価値を正当に評価する、持続可能な薬価制度や、適切な保護となる特許制度などを通じて、政策立案者が投資の継続を支援することや、欧州への投資呼び込み拡大に向けた業界との協力の必要性を訴えた。

(注1)遺伝子組み換え技術や細胞培養技術によって作られる医薬品。

(注2)遺伝子、細胞、または組織からなるヒト用医薬品。遺伝子治療、体細胞治療医薬品、再生医療製品、集学的治療などが含まれる。

(注3)参加者の生体情報を自動的に取得するウエアラブルデバイスの装着や、参加者が自宅などから測定データなどをオンラインで記録・報告するなど、参加者の来院を必ずしも必要としない治験。

(滝澤祥子)

(EU)

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