全国賃金評議会、月給約22万円以下の「低所得者」に賃上げ勧告
(シンガポール)
シンガポール発
2022年11月24日
シンガポールの政労使代表で構成する全国賃金評議会(NWC)は11月14日、2022/2023年度(2022年12月1日~2023年11月30日)の賃金ガイドラインを発表した。新型コロナウイルスの沈静化に伴う景気回復を受けて事業主に対し、総月給2,200シンガポール・ドル(約22万4,400円、Sドル、1Sドル=約102円、注1)以下の「低所得者」について、総月給の5.5~7.5%、または80~100Sドルのいずれか高額の賃上げを勧告した。NWCは、人材省や全国労働組合会議(NTUC)、シンガポール国家雇用者連合(SNEF)、外国商工会議所などの代表で構成し、景気や雇用市場の動向、経済見通しなどを考慮して、その年の賃金改定の指針となるガイドラインを毎年発表している。
NWCは今回、景気回復と国際経済の先行きが不透明なことを勘案した上で、低所得者の従業員を対象に、(1)業績も先行きの見通しも良い事業主の場合、総月給の5.5~7.5%の賃上げレンジの上限、または少なくとも80~100Sドルのいずれか高額、(2)業績が好調なものの先行きが不透明な事業主の場合、総月給の5.5~7.5%の賃上げの低~中レンジ、または80~100Sドルのいずれか高額、(3)業績が低迷した事業主の場合、総月給の5.5~7.5%の低レンジの賃上げを行うよう勧告している。
政府はこれまで、「最低賃金」を設定していない。しかし、低所得者の給与の底上げのため、低所得者層の多い職種ごとに、技能に応じて賃金を段階的に引き上げる「累進的賃金モデル(PWM)」を設定し、順次対象を拡大している(2022年8月22日記事参照)。人材省は2023年3月1日から、事務職とドライバーにもPMWの対象を拡大する予定だ(注2)。
低所得者以外も対象に、業績などに応じた賃上げを勧告
さらにNWCは、低所得者のみならず、全ての従業員を対象に、(1)業績も先行きの見通しも良い事業主について、業績と従業員の貢献に応じた基本給と可変給(業績に応じて変動する給与)の引き上げ、(2)業績が良いが先行き不透明な事業主については、基本給の引き上げを緩やかにしつつも、従業員の貢献に応じた可変給の支給、(3)業績が低迷した事業主については、経営層が見本を示すかたちで賃金の抑制を行うよう、勧告した。
NWCの賃金ガイドラインは、幹部、専門職、技術者、一般社員と全ての労働者に対し、組合・非組合を問わずに適用される。人材省は11月14日、NWCの勧告を受け入れた。同勧告の全文は人材省ウェブサイトを参照。
(注1)総月給は、基本給、可変給、食事や住宅などの手当、インセンティブ、残業代を含むが、賞与と年間給与補助(AWS、13カ月目の給与)は含まれない。また、中央積立基金(CPF)の従業員の負担分を含むが、雇用主のCPF負担は含まれない。NWCは低所得者の定義として、シンガポールの労働者の所得下位20%に相当する2,200Sドル以下と設定した。
(注2)人材省は2023年3月から、フルタイムの事務職について総月給を1,500Sドル以上、フルタイムのドライバーの総月給を1,750Sドル以上に設定する。詳細は人材省ウェブサイト参照。
(本田智津絵)
(シンガポール)
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