米通信機器シスコ、バルセロナにEU初の半導体開発拠点を設置

(スペイン、米国)

マドリード発

2022年11月14日

米国通信機器大手シスコシステムズは11月10日、バルセロナに次世代半導体デバイスの設計センターを開設する計画を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。開設には、新型コロナウイルス感染拡大からの復興計画におけるスペインの官民連携事業「マイクロエレクトロニクス・半導体分野の戦略的復興・変革プロジェクト(PERTE Chip)」の支援を活用する予定。同社としてEUで初の半導体イノベーション拠点となる。

半導体分野の復興基金プロジェクト

PERTE Chip外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、スペインのマイクロエレクトロニクスや半導体産業の設計・製造能力をバリューチェーン全体にわたり強化し、EUで審議中の欧州半導体法案(2022年2月10日記事参照、注1)に沿って、スペインとEUの戦略的自律性を高めることを目指す産業変革プロジェクト。2022~2027年に公的資金122億5,000万ユーロを投じ、民間投資を呼び込むというもの。

以下の4つの支援の柱がある。

1.研究開発イノベーション(R&D&I)への支援

最先端のマイクロプロセッサー、代替アーキテクチャー、集積光工学のR&D&I強化や量子チップの開発。EUの「マイクロエレクトロニクスと通信技術に関するIPCEI(欧州共通利益に適合する重要プロジェクト)」を強化するための資金提供ラインを立ち上げる(助成額見込み11億6,500万ユーロ)。

2.設計戦略への支援

最先端のマイクロプロセッサーや代替アーキテクチャーを設計するファブレス企業(注2)、パイロットライン、半導体分野の人材育成ネットワークの設置などを通じて、マイクロプロセッサー設計でのスペインの能力を高める措置が含まれる(予算額13億3,000万ユーロ)。

3.製造プラントの誘致支援

回路線幅5ナノメートル(nm)以下の最先端半導体または同5ナノメートル超の中級技術の半導体の生産施設を国内に建設する(予算額93億5,000万ユーロ)。

4.情報通信機器産業の振興支援

半導体関連の国内スタートアップやスケールアップ、中小企業に投資するファンドの設立(予算額2億ユーロ)。半導体を使う電子機器の国内生産能力を強化し、半導体の国内需要を創出する(同4億ユーロ)。

2022年6月には米インテルとバルセロナ・スーパーコンピューティング・センター(BSC)による投資額4億ユーロの合弁プロジェクト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにもPERTE Chipによる助成が決定している。同事業は、次世代のゼタスケール・スーパーコンピュータ(注3)の共同研究開発拠点を設立し、自律走行車や人工知能デバイス向けのマイクロプロセッサーや半導体チップの設計を行う。

バルセロナ・スマートシティーのインフラ構築実績も

今回のシスコの発表は、11月15日〜17日にバルセロナ市で開催されるスマートシティー・エキスポ・ワールド・コングレス(SCEWC)に先立って発表された。同市は先進的なスマートシティーの構築・運用やガバナンスで世界的に有名だが、シスコは主要パートナー企業として、2012年よりスマートシティー社会実装の基盤となるWi-Fi環境の構築やIoT(モノのインターネット)技術の展開を担ってきた。こうした経緯もあり、新たな半導体設計センターは、バルセロナにあるシスコのイノベーション・センター内に設置される予定だ(11月10日付政府発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

(注1)欧州半導体法案の概要については、調査レポート「EUの半導体政策と半導体法案の概要 EUデジタル政策の最新動向(第1回)」(2022年8月)を参照。

(注2)製造業だが自社工場を持たない企業。

(注3)1秒間に10の21乗回(ゼタ)以上の浮動小数点演算を行うことができるスーパーコンピュータシステム。

(伊藤裕規子)

(スペイン、米国)

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