欧州委、肥料の供給不足や価格高騰への対応策提案、有機質肥料の使用を推奨

(EU)

ブリュッセル発

2022年11月16日

欧州委員会は119日、農業に必要な肥料供給不足への対応やEU肥料部門の低炭素化、国際的な食料安全保障を念頭に置いた途上国支援に関する政策文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUは窒素質肥料を域外からの輸入に大きく依存しており、ロシアは主要な供給国だった。また、EUでの肥料生産に必要なリン酸塩、炭酸カリウム、天然ガスも輸入に依存しており、特に天然ガス価格の高騰によって、肥料部門は減産に追い込まれ、供給量は減っている。肥料や原材料はEUの対ロシア制裁の対象ではないが、ロシア自身が輸出量を減らしていることや、EUのベラルーシに対する制裁にカリウムなど一部の原材料が含まれることから、ロシアから迂回(うかい)輸入を防止するため、EU側で輸入量を制限している。そのため、化学肥料の価格はロシアのウクライナ侵攻後、通常のおおむね35倍まで上昇する事態となっている。

欧州委は、農業事業者が肥料の購入・使用量を減らすと、農産物の品質のみならず、生産量にも影響が及び、食品がさらに値上がりして家計への影響も増大するとの懸念を示した。そこで、短期的な対策としては、(1)加盟国が、冬にガス需給が逼迫した場合、肥料部門に優先的にガス供給を行うことを認定、(2)国家補助に関する暫定危機対応枠組み(2022年11月1日記事参照)などにより、エネルギー価格高騰の影響を受ける企業や農業事業者への財政的支援の実施といった施策を提案した。

長期的な対策としては、(12023年に欧州委が肥料の生産・使用量、価格の監視を行う仕組みを立ち上げ、市場の透明性を確保、(2)肥料生産での化石燃料依存からの脱却やカーボンフットプリント削減を目指すと同時に、土壌にある養分の効率的な活用や、有機質肥料の使用増加によって化学肥料の使用を減少、(3)窒素質肥料の原料のアンモニア生産への利用を促進するため、再生可能エネルギーを使用して作られるグリーン水素や、バイオメタンへのEU加盟国による投資を欧州委が奨励、(4)これまでEUに肥料や原材料を供給してきたロシア、ベラルーシに代わる供給元を確保などを挙げた。(4)に関連し、欧州委は20227月に、2024年末まで窒素質肥料の原材料のアンモニアと尿素への輸入関税賦課を一時停止することを提案した。

さらに、欧州委は国際的な食料安全保障の強化のため、2024年まで合計約77億ユーロを拠出し、国際的な協力枠組みを通じて、途上国での輸入化学肥料の使用削減や持続可能な農業の推進に貢献するとした。

肥料部門は低炭素化への支援を訴え、農業部門は「期待外れ」と痛烈批判

欧州肥料工業会(ファーティライザー・ヨーロッパ)は119日、欧州委が提案した短期的な対策は評価しながらも、長期的な対策については「より包括的な戦略が必要」で、その戦略には肥料部門の低炭素化への支援が含まれるべきだとした(欧州肥料工業会プレスリリースPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます))。

欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体COPA-COGECAも同日、「(ほとんど)中身のない新たな政策文書ではないか」と題した声明を発表し、農業部門にとっては具体策に欠け、「期待外れ」だったと痛烈に批判した。欧州委が示した長期的な対策のみならず、アンモニアなどへの関税賦課の一時停止や国家補助の実施といった案なども、現在の肥料市場の混乱への対応にはなっていないと述べた。関税賦課の一時停止については、全ての窒素質肥料、リン酸質肥料の原材料に適用対象を広げることを提案した。

(滝澤祥子)

(EU)

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