米税関、テロ防止CTPATの便益拡大、強制労働に対処する輸入者対象に

(米国、中国)

ニューヨーク発

2022年11月25日

米国税関・国境警備局(CBP)は11月18日、「テロ防止のための税関・産業界パートナーシップ(CTPAT)」の貿易法令順守プログラムの認定事業者が受けられる便益を拡大すると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

CTPATは2001年の同時多発テロを受けて導入された官民共同のプログラムで、米国向け貨物のサプライチェーンのセキュリティー強化と貿易円滑化の両立を目的とする。CTPATは「セキュリティー」と「貿易法令順守」の2つのプログラムで構成しており、貿易法令順守プログラムの認定事業者はセキュリティープログラムに参加している場合の便益に加えて、CBPの事前教示制度の裁定迅速化などの便宜を享受できる。なお、CBPは2022年8月に貿易法令順守プログラムの申請事業者に対し、強制労働への対処に関わる6つの要件を加えた(2022年11月4日記事参照)。CBPが今回発表した貿易上の新たな便益を受けるためには、それらの要件も満たす必要がある。

新たな便益の概要は次のとおり。

  • 強制労働への関与を理由に差し止められた輸入貨物について、税関は貿易法令順守プログラム認定事業者の貨物を優先的に審査する。輸入者は輸入許可を求める関連書類を税関に提出する際、貿易法令順守プログラムの認定事業者であることを示す必要がある。
  • 輸入を一度認められた後、強制労働への関与を理由に税関への返還命令が出された貨物について、貿易法令順守プログラムの認定事業者は貨物を返還する代わりに、輸入可否の決定が出る、または貨物の検査が必要になるまで自社施設で貨物を保管できる。
  • 違反商品保留命令(WRO、注)に基づいて差し止められた貨物について、貿易法令順守プログラムの認定事業者は、輸入可否の決定が出るまで保税施設で貨物を保管できる。

これらの便益のうち、優先的な輸入許可審査に関して、CBPは既に、2022年6月に施行されたウイグル強制労働防止法(UFLPA)に伴う手続きで貿易法令順守プログラムの認定事業者への対応を優先するという方針を示していた。UFLPAに基づいて差し止められた貨物は、CBPが原則30日以内に輸入例外を認めない限り、通関から排除される決まりになっているため、輸入許可審査の迅速化は輸入者にとって特に便益が大きいとみられる(2022年8月5日付地域・分析レポート参照)。

CBPは、WROまたはUFLPAに基づいて差し止めなどの対象となった通関件数を2022年8月分から毎月公表しており、8月は838件(2億6,650万ドル相当)、9月は491件(1億5,860万ドル)、10月は398件(1億2,980万ドル相当)と推移している。差し止められた貨物の詳細は明らかにされていないが、ロイター(11月11日)によると、CBPは10月25日までにUFLPAに基づいて1,053件の太陽光発電製品を押収し、それらは主に中国メーカーのロンジ・グリーンエナジー・テクノロジー、トリナ・ソーラー、ジンコソーラーの3社の製品だったとされる。

(注)CBPは、強制労働を使用して生産された製品の輸入を禁じる1930年関税法307条に基づき、WROを発令する権限を持つ。米国の人権関連法・規制や、サプライチェーンに関わる規制の運用、実務上の対応などについては、2021年6月25日付地域・分析レポート調査レポート「グローバル・バリューチェーン上の人権侵害に関連する米国規制と人権デューディリジェンスによる実務的対応」を参照。

(甲斐野裕之)

(米国、中国)

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