米USTR代表、市場開放を「断念していない」と述べるも、国内産業の再建や労働者支援の重要性を強調

(米国、中国)

米州課

2022年10月11日

米国通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表は10月7日、産業政策に関するルーズベルト研究所主催の会議で演説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

タイ代表は冒頭、自由貿易が及ぼした負の側面に言及し、「われわれは約40年間、FTA(自由貿易協定)を継続してきた。一部の経済セクターはこの恩恵を受けたが、ここに集まっている多くの人々は、積極的な自由化や関税の撤廃といった貿易に対する従来型のアプローチが、富の集中、脆弱(ぜいじゃく)なサプライチェーン、産業の空洞化、オフショアリング、製造業の衰退などの大きな犠牲を生んだことを知っている」と述べた。

また、中国が世界的な影響力を高めていることを念頭に、「われわれは20年以上、中国による大規模で、不透明かつ国家主導の産業支配政策を目の当たりにしてきた。従来の貿易ツールや多国間貿易システムは、こうした歪(ゆが)みに対処できず、むしろ市場はこれから恩恵を受けた。これらの政策の世界的な影響は、米国のような開かれた市場や自由市場国の労働者や産業が繁栄する力、あるいは生き残る力を大きく制限することになった」と主張した。さらに、「経済不安の高まりや新型コロナウイルスの流行、ロシアによるウクライナ侵攻が、われわれの貿易に対するアプローチを再検討するよう迫っている」と語った。

他方、タイ代表は「われわれは市場開放、自由化、効率化を断念したわけではない。しかしサプライチェーンのさらなる弱体化、リスクの高い依存関係の深刻化、製造業コミュニティーの衰退、地球の破壊といった代償を払うわけにはいかない」と述べた。バイデン政権は自由貿易を完全に否定しているのではなく、産業政策などと均衡を保った上で推進されるべきものという考えを示したかたちだ。

また、タイ代表は、これまでのやり方を改め、他国と協力していくことの必要性を強調した。協力分野として気候危機への対処や労働者への支援を例示し、世界経済の公平さに対する信頼を回復すべきと語った。労働者への支援については、USTRが2022年3月1日に発表した「2022年通商政策アジェンダと2021年年次報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」の中でも、2021年と同様に、引き続き推進していく重要政策と記されている。また、他国(地域)との協力事例として、EUとの関係が語られた。両者は米EU貿易技術評議会(TTC)(2021年6月16日記事参照)を通じて、競争力の強化やイノベーションの推進だけでなく、労働や環境など持続可能な貿易政策にとって不可欠な緊急課題について協力関係を構築しているとした。インド太平洋経済枠組み(IPEF)については、伝統的なFTAではないとした上で「今日われわれが直面している真の課題に対処するためのモデルとなるものだ」と語った。

タイ代表は最後に、バイデン政権が連邦議会で成立させたインフラ投資雇用法、インフレ削減法、CHIPSおよび科学法について、「これらは、米国の将来に対する頭金だ。われわれはここで立ち止まるわけにいかない」と主張した。また、大企業や非市場的な経済に利益が集中する現状を変え、米国の持続的な成長や、パートナー国との包摂的で持続可能な繁栄を築く道を開きたいと語った。

(片岡一生)

(米国、中国)

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