米イリノイ州、「エネルギー見通し2022年版」のセミナー開催

(米国、英国)

シカゴ発

2022年10月24日

米国のイリノイ州商業委員会は10月13日、英国の石油ガス大手BP(本社:ロンドン)が発表した「エネルギー見通し2022年版」(Energy Outlook 2022外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)について、セミナーを開催した。

基調講演したBPの米国チーフエコノミスト、マイケル・コーエン氏によると、「今回の見通しでは、2020年から幾つか大きな前進がみられる」という。各国政府による気候変動への取り組みは世界的なレベルで増加しているとし、世界が温室効果ガス(GHG)排出ゼロへ移行するために不可欠な風力発電や太陽光発電の導入や、電気自動車(EV)の普及、ブルー水素、グリーン水素(注)、二酸化炭素(CO2)回収・利用・貯留(CCUS)などのプロジェクトの急速な拡大を例示した。

米国は現在、二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに2005年と比較して半減させる目標を掲げているが、今回の見通しによると、現在は30~40%減と、目標達成に向けた途上にあるという。コーエン氏によると、この排出量削減で効果が期待されるのはEVの普及拡大だ。2022年8月に成立したインフレ削減法(IRA)によって現在、気候変動とクリーンエネルギーに対応するための米国史上最大の予算が確保されている(2022年8月17日記事参照)。これによって各州がEVのインフラを整備するための税制上の優遇措置も提供され、消費者がEVを購入する動機にもつながるだろうとコーエン氏は指摘した。

今回の見通しは、大部分がロシアによるウクライナ侵攻以前に作成されたため、この侵攻による影響については、質疑応答セッションでコーエン氏が解説し、天然ガス価格高騰に代表されるエネルギー動向への影響について、「短期的には持ちこたえることができるだろうが、向こう2年の液化天然ガス(LNG)の増産は限られており、価格が下がる可能性は低い」とし、「ロシアからの天然ガス供給が途絶える中、サウジアラビアがその不足分を補填(ほてん)しているが、現在の生産レベルを考慮すれば、3~5年は価格高騰が続くだろう」と述べた。一方で「現在起こっている価格高騰は長期的に見れば、化石燃料から代替エネルギーへの転換を加速させるだろう」と分析。短期的には、エネルギー安全保障のために自国での炭化水素の早期開発に注力している国々もあり、エネルギー統合の縮小と脱グローバル化をもたらすと考えられるという。また「戦争によって国内のエネルギー安全保障を確保しようとするあまり、国内の化石燃料の使用量を増やしている国もあるため、世界的にCO2排出量が増加する懸念がある」との見解を述べた。

(注)ブルー水素とは、化石燃料から製造する水素で、製造過程で排出される二酸化炭素を回収・貯蔵するので、実質的にCO2排出がないと見なされる。グリーン水素は、風力や太陽光などの再生エネルギーのみを用いて、水を電気分解して製造するもの。

(ラルフ・インフォルザート、星野香織)

(米国、英国)

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