EU加盟国の新型コロナ対策としての補助金総額は3.1兆ユーロ

(EU)

ブリュッセル発

2022年10月19日

欧州委員会競争総局は10月17日、新型コロナウイルスによる経済的な損害への対応策として、EU加盟国が実施した補助金政策(以下、国家補助)について総括した「新型コロナ暫定国家補助枠組み報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を公表した。EUでは加盟国間の公平な競争条件を維持するため、競争政策の一環として加盟国の国家補助を規律している。しかし、新型コロナによる経済への甚大な影響を緩和するため2020年3月、加盟国が通知した国家補助を欧州委が通常より柔軟な基準の下で承認する「暫定国家補助枠組み」を採択。同枠組みは2022年6月末をもって原則として終了している。

報告書によれば、2020年3月から2021年末までの期間で、新型コロナ対策としての暫定国家補助枠組みの下で承認されたEU加盟27カ国(EU離脱の移行期間中だった英国を除く)の国家補助策は少なくとも865件あり、総額約3兆1,000億ユーロに上る(以下、いずれも概算額)。このうち、既に補助金として拠出された額は9,400億ユーロで、これは年換算するとEUのGDPの3.4%に相当するとした。承認された総額と、実際の拠出額の差について報告書では、同枠組みが終了した2022年6月末までの拠出分で一部、計算に含まれていないものがあることに加え、採択された国家補助のうち、融資に対する公的保証などで実際には拠出に至らない、もしくは通知した額に満たない場合も含まれるためと説明している。

ドイツ、フランス、イタリア、スペインで総額の8割を占める

加盟国別では、ドイツ(2,260億ユーロ、全体の24.1%)、フランス(2,230億ユーロ、23.8%)、イタリア(2,050億ユーロ、21.8%)、スペイン(1,230億ユーロ、13.1%)の順に拠出額が多く、この4カ国で総拠出額の8割以上を占めた。各加盟国のGDPに占める拠出額の年換算での割合では、イタリアが6.0%で最も高く、スペイン(5.3%)、ハンガリー(5.0%)、フランス(4.7%)、ギリシャ(4.0%)が続いた。

報告書では、「特定の加盟国が、他の加盟国に比較して著しく大きな額を拠出したという証拠はなく、EU域内の公平な競争条件に対する影響は小さかった」と結論付けている。総じて2020~2021年の新型コロナに伴う経済的損失の対加盟国GDP比と、各加盟国が拠出した国家補助の額との間には正の相関が確認できることを根拠に挙げた。また、拠出された9,400億ユーロの64%が、融資に対する公的保証や低金利融資の形態で実施されており、直接的な補助金の支払いに比べ「一般的に競争歪曲(わいきょく)効果が小さい」とも説明した。

現在EUでは別途、ウクライナ情勢とエネルギー価格高騰を受けた企業に対する国家補助に関する暫定危機対応枠組みが実施されている(2022年7月13日記事参照)。新型コロナ対策やエネルギー対策に伴う財政出動により、加盟国の政府債務残高が大幅に増加する中、EUは財政による経済の下支えと財政規律の確保の両立という難しいかじ取りを求められている。

(安田啓)

(EU)

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