EU理事会、十分な水準の最低賃金に関する指令案を採択、2024年中にも適用開始

(EU)

ブリュッセル発

2022年10月12日

EU理事会(閣僚理事会)は10月4日、EU域内の十分な水準の最低賃金に関する指令案を採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。これは、労働者の生活水準の向上を目的に、欧州委員会が2020年10月に提案していたもの(2020年11月2月記事参照)。同指令案は、EU域内での共通最低賃金の導入や、各加盟国での最低賃金の水準を直接的に設定するものではなく、あくまでも客観的な指標に基づく十分な水準の最低賃金の設定枠組みを規定する。

最低賃金指令案はまず、加盟国法により最低賃金を設定している加盟国(注)に対して、労働者に十分な生活水準を提供するために、明確に定義された基準に基づく、法定最低賃金の設定と改定の手続きの設置を義務付ける。こうした加盟国は、法定最低賃金の改定を少なくとも2年に1回実施することが義務付けられる。法定最低賃金の基準に関しては、法定最低賃金が十分な水準であることを評価するために、明示的な参照値を使用することが義務付けられるが、参照値自体の指定はなく、労働組合や雇用者団体などとの協議の上で、各加盟国が決定することができる。その上で、総賃金の中央値の60%あるいは総平均賃金の50%を、加盟国が使用し得る参照値として挙げている。2018年時点で、フランスやポルトガルなどごく一部の加盟国を除き、ほぼ全ての加盟国で法定最低賃金が総賃金の中央値の60%を下回っていることから、今後多くの加盟国で法定最低賃金が引き上げられる可能性がある。

このほか、最低賃金指令案では、法定最低賃金の有無にかかわらず、加盟国は、平等な立場での労使間の交渉を支援するとともに、団体交渉権を行使する労働者を保護するための措置を実施するなど、労使間の団体交渉を強化することが求められる。また、団体交渉における労働者の組織率が高い加盟国では低賃金労働者の割合が低く、最低賃金の水準も高いことから、組織率が80%以下の加盟国に対して、組織率を引き上げるための行動計画の策定が義務付けられる。法定最低賃金のある加盟国のうち、フランス、ベルギー、オランダなどでは組織率が80%を超えている一方で、エストニア、リトアニア、ポーランドなどでは組織率が20%を下回っている。なお、法定ではなく労使協約で最低賃金を設定しているスウェーデン、デンマーク、フィンランド、オーストリア、イタリアでは、労使協約の対象となっている労働者の割合は80%を超えている。

最低賃金指令案は、6月のEU理事会と欧州議会の暫定合意を経て、欧州議会は9月に採択していることから、今回のEU理事会の採択により、官報掲載から20日後に発効される。発効後、各加盟国は2年以内に同指令に対応した国内法を整備することが求められる。

(注)27加盟国中、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、オーストリア、イタリア、キプロスを除く、21カ国に法定最低賃金の設定がある。

(吉沼啓介)

(EU)

ビジネス短信 09ba5af2fe7c8b14