欧州産業界、EUの電力市場改革への支持やガス価格抑制の要望上がる

(EU)

ブリュッセル発

2022年09月05日

欧州では、エネルギー価格の高騰や今後の供給への不安が高まる中、産業界からはEUに対応強化や支援を求める声が出ている。

欧州の小売・卸売業界団体のユーロ・コマースは91日、欧州委員会が検討しているエネルギー価格の高騰に対する短期的な対応策や、電力市場の構造改革といった長期的な対応策(2022年8月31日記事参照)への支持を表明した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ユーロ・コマースは、EUと加盟国は、同業界が冷暖房や換気、冷蔵などのためエネルギー多消費産業であることを認め、同業界が再生可能エネルギーへの転換など「エネルギー移行」を推進する投資を加速するために、支援や移行の促進につながるような規制枠組みが必要だとした。欧州委に対しては、(1)ロシアによるウクライナ侵攻を受けて発表したEUの国家補助に関する暫定危機対応枠組み(2022年7月13日記事参照)の下での企業支援に透明性を与える、(2)エネルギー関連の税や付加価値税(VAT)の減税といった対策の速やかな採択、(3)「リパワーEU」(注)や建物のエネルギー性能指令(2021年12月17日記事参照)で企業に課される目標を企業のコスト吸収能力や必要な設備などの可用性などと現実的に整合させることなどに優先的に取り組むよう要請した。

繊維業界も電力市場改革やガス価格の上限設定を求める

欧州繊維産業連盟(EURATEX)も826日、EUに対して、EU域外の競合相手と比較してより大きくのしかかっているエネルギーコストの負担軽減のために、電力価格の決定メカニズムを見直し、ガス価格についてはEUレベルで1メガワット時(MWh)当たり80ユーロの上限を設定することを求める声明を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EURATEX2022年末までには電気とガス価格を企業にとって適切な水準まで抑えられるよう、各国政府の努力を求めた。さらに、安定的かつ予測可能な電力供給が最も重要だと指摘。ガスの使用制限や電力の割当といった手段は「最終手段」として用いられるべきで、使用量削減の義務化(2022年8月9日記事参照)に消極的な姿勢を示した。また、現在の危機を受けて、加盟国がそれぞれの対策を策定しているが、EURATEXは「互いに矛盾した、調整の取れていない措置」と評価し、こうした措置は「欧州単一市場の細分化」を招いており、EU内での公正な競争を担保する政策が重要だと強調した。

EURATEXによると、エネルギー価格の高騰を製品価格に転嫁することは厳しい国際競争環境からみて不可能で、既に生産を一時的に減少または停止させている企業もある。アルベルト・パッカネッリ会長は声明の結尾で、エネルギー価格の高騰が続けば「欧州繊維産業が消滅するシナリオももはや除外できない」と述べ、多くの企業倒産や、EU域外への生産拠点の移転などに伴う域内雇用の消失、域外品への供給依存の増大への強い危惧を示した。企業が危機を乗り切り、長期的にはグリーン化を進めるためにも、特に中小企業への国家補助や減税といった措置が必要だと訴えた。

(注)欧州委が発表した、ロシア産化石燃料依存からの早期脱却計画。詳細は、2022年9月1日付地域・分析レポート参照

(滝澤祥子)

(EU)

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