EU外相理事会、ロシアとのビザ発給円滑化協定の全面停止で合意、ビザ厳格化へ

(EU、ロシア)

ブリュッセル発

2022年09月02日

EU外相理事会の非公式会合が83031日、2022年下半期にEU理事会(閣僚理事会)の議長国を務めるチェコの首都プラハで開催され、ロシアとの間で締結しているビザ発給の円滑化協定の適用を全面的に停止することで合意した(8月31日付プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

同協定は、2007年から施行されているEU加盟国とロシア間の協定で、短期間での発給の決定、提出書類の簡略化、通常より低い申請手数料の設定などにより、相手国の国籍者に対する短期ビザの発給の円滑化を相互に図るものだ。

EUは既に、対ロシア制裁の一環として、ロシア政府関係者や政府に近いとされる新興財閥(オリガルヒ)などの特定の個人のEUへの入域や、ロシアの航空会社やロシア籍の航空機のEU域内の発着と領空通過を禁止している(2022年3月2日記事参照)。一方で、ビザを保有する一般のロシア国籍者については、EUへの入域を従来どおり認めている。こうした中で、7月以降、ロシアから隣接する加盟国への入国者が増加していることから、安全保障上のリスクが指摘されており、ウクライナに侵攻するロシアからの観光客の受け入れについてもその是非が議論を呼んでいた。

今回の合意を受けて、EUのジョセップ・ボレル・フォンテーリャス外務・安全保障政策上級代表(欧州委員会副委員長兼任)は、ロシア国籍者による加盟国へのビザ申請は今後、より困難かつ多くの時間を要することになるとして、新規のビザ発給数は大幅に減少するとの見通しを示した。ただし、今回の合意は、EUレベルでの共通した対応と強調しつつ、あくまで政治的な合意としており、実施時期など具体的な内容は明らかにされていない。また、既に発給済みのビザの扱いについても、加盟国は共通して対応する必要があるとし、欧州委に指針の作成を要請するとした。

EUレベルでのビザ発給の禁止措置には踏み込まず

ロシア国籍者へのビザ発給をめぐっては、加盟国間で意見が割れている。ロシアと国境を接するバルト3国などはビザの発給禁止を求めており、フィンランドも既にビザ申請の受け付けを制限している。一方で、ドイツなどは、ロシアで迫害された人々がEU域内に避難する手段を確保する必要があるとして、ビザの発給禁止には慎重な立場をとっている。こうしたことから、今回の合意では、ロシア国籍者に対するビザの発給禁止は見送られた。ボレル上級代表は「ウクライナ侵攻に反対するロシアの人々やロシアの市民社会をEUから切り離したいわけではない」と強調しつつ、「ロシアと国境を接する加盟国に対しては、加盟国レベルでロシアからの入国を制限することは可能」だと述べ、こうした加盟国の懸念にも理解を示したかたちだ。

(吉沼啓介)

(EU、ロシア)

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