中国EU商会が提言書発表、往来困難や柔軟性に乏しい新コロナ規制が対中投資に影響と指摘

(中国、EU)

北京発

2022年09月29日

在中国欧州企業で構成する中国EU商会は9月21日、中国政府へのビジネス環境改善などの要望をまとめた提言書を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。1,800社超の会員企業の意見を集約(注1)したもので、約967項目の提言を掲載している。

提言書では、概要パートで中国の投資先としての地位が低下していることを指摘し、その要因として、(1)国有企業改革の停滞や一貫性を欠いた政策実施、(2)柔軟性を欠いた新型コロナウイルスへの対応、(3)往来制限による欧州の企業本社と在中国現地法人の人的交流・情報交換の減少、(4)ビジネスの政治化の傾向の高まり、(5)企業のサプライチェーン戦略の変化などを挙げた。

(1)は、国有企業が多くの分野で優位を占め、資金調達や許認可、政府調達などの面で優遇されているとしたほか、2021年後半に発生した「2つのコントロール政策」(注2)に関する地方政府の極端な対応などが多くの企業において中国の予見性に悪影響を及ぼしたと指摘した。(2)、(3)については、全国各地の物流の防疫規制の差異がサプライチェーンに影響したことや、厳格な往来制限のために外国人駐在員の配置が困難になっていること、中国へ出張しての交流や視察ができないために投資に関する決定ができず、本社での中国に対する理解度が低下していること等を指摘した(注3)。

その上で、こうした傾向が続けば、中国のビジネス環境における3つの優位性である予見性、信頼性、効率性が損なわれ(注4)、欧州企業は中国での今後の投資や事業について再検討せざるを得なくなり、中国向けとそれ以外の世界とでサプライチェーンを分けて構築することを余儀なくされることになると警鐘を鳴らしている。こうしたワーストシナリオを防ぐため、同商会は中国政府に対し、包括的な市場改革を行い、政策担当者に試行錯誤や政策転換の余地を与えることで、中国が経済的な潜在力を発揮し、企業の投資マインドを回復させるよう提言している。

また、提言書では、欧州企業の対中投資に関するトレンドの変化についても指摘している。EU商会のプレスリリースによると、過去4年間の欧州からの対中投資の多くが少数の大企業によるもので(注5)、その他の欧州企業の多くは対中投資について様子見の態度を取っており、中国業務の現状は維持しつつも、より安定的な他の市場を評価しているとしている。

(注1)中国EU商会は各問題や業界ごとにワーキンググループを組成し、そこで意見集約したものを提言書に記載している。今回の提言書では、コンプライアンス・企業倫理、環境、財務・税務、人的資源、知的財産権、中小企業、投資、法律・競争、研究開発、標準・合格評定の10項目の業種横断的な課題のほか、各業界の課題と提言について記載している。

(注2)エネルギー消費量とGDP単位当たりのエネルギー消費量(エネルギー強度)の2つを抑制する政策。

(注3)要因の(4)、(5)に関しては、米国の「ウイグル強制労働防止法」(詳細はジェトロ特集ページ参照)やEUが策定している「ESG指令」のカーボンフットプリント報告要求など、国際的な拘束力を有するサプライチェーンに関係する規制が欧州の在中国企業や関係企業にとってコンプライアンス上の課題になっていると指摘している。

(注4)提言書は、2021年に起きた事前通告なしの電力供給制限や突発的かつ大規模な新型コロナウイルス規制による封鎖、テクノロジー業界や教育業界への突然の規制強化などが予見性を弱め、企業の中国業務に対する独立した第三者による監査を行えないことが信頼性を弱め、かつ、中国と本国の双方の法規を順守するために中国業務をグローバル業務から切り離す必要が生じていることや、人口ボーナスが消失して生産性が低下していることにより、効率性が低下していると指摘している。

(注5)米調査会社ロジウム・グループは9月14日に発表したレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの中で、欧州企業の対中投資について分析し、同様の見方を示している。

(小宮昇平)

(中国、EU)

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