欧州委、新型コロナ禍のサプライチェーンの混乱を教訓に、緊急時の単一市場保護法案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2022年09月27日

欧州委員会は919日、緊急時にEUの単一市場の機能を維持、戦略物資を確保するための規則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUでは全加盟国を統合された単一市場として、モノ、サービス、人の自由な移動を認めている。しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、各加盟国がマスクなどの輸出や人の移動に対して一方的に制限を課したことから、単一市場が分断され、サプライチェーンに大きな混乱が生じた。このことから、欧州委は、将来の緊急事態に備えて、単一市場における自由な移動への障害を取り除き、医療品などの危機関連物品の不足に対応するための、常設の危機対応メカニズムが必要だとしている。法案では、加盟国の代表者からなる、欧州委に対する諮問委員会を設置した上で、有事準備(平時)、警戒、緊急事態の3段階(モード)からなる対応枠組みを規定している。

戦略的に重要な物品・サービスのサプライチェーンへの重大な混乱の恐れがある場合、欧州委は警戒モードを発動する。警戒モードが発動されると、加盟国は、欧州委が指定した戦略的重要物品のサプライチェーンの状況を監視する。また、欧州委は、緊急事態に備えて備蓄の必要がある物品を特定し、加盟国との備蓄状況の共有や、加盟国間の備蓄の調整を行う。また、備蓄状況が一定の水準を下回った場合、欧州委は加盟国に対して備蓄を義務付けることができる。

単一市場の自由な移動や社会・経済活動に必要不可欠なサプライチェーンの機能に、深刻な混乱をもたらす危機が発生した場合、欧州委の提案に基づき、EU理事会(閣僚理事会)は特定多数決により、緊急事態モードを発動することができる。緊急事態モードが発動されると、加盟国は、欧州委が特定した危機関連物品・サービスのEU域内の移動を制限することが原則として禁止される。また、人の移動に関しても、旅客交通を制限すること、特定の加盟国との移動を他の加盟国との移動よりも優遇すること、EU市民や域内居住者の出身国や居住国である加盟国への入国やそのための出国を拒否すること、移動目的にかかわらず一律に旅行を制限すること、などが原則として禁止される。また、欧州委は加盟国に対して、備蓄の計画的な配給を勧告することができる。

さらに、警戒モード・緊急事態モードにおいては、加盟国の要請に応じて、欧州委は特定の物品の共同調達を実施することができる。

欧州委、事業者に対して強制的な措置の実施も可能に

緊急事態モードの発動時に、欧州委は危機関連物品のサプライチェーン上の事業者に対して、自主的な対応を求めた上で、対応が拒否された場合には、法的拘束力のある命令を採択することができる。これには、危機関連物品の生産能力・在庫などの情報の提供命令と域内向けに優先的に生産・供給する命令が含まれる。欧州委は、当該事業者が情報提供命令に違反した場合には20万ユーロ以下の制裁金を、優先生産供給命令に違反した場合には、同命令が順守されるまでの期間1日ごとに、前会計年度の1日当たりの平均総売上高の1%以下の制裁金を科すことができる。

この法案は今後、EU理事会と欧州議会で審議される。

(吉沼啓介)

(EU)

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