米上院民主党議員、「インフレ削減法案」発表、ビルド・バック・ベター法案の規模縮小し党内合意

(米国)

ニューヨーク発

2022年08月02日

米国の上院民主党トップのチャック・シューマー院内総務(ニューヨーク州)と民主党のジョー・マンチン上院議員(ウェストバージニア州)は27日、気候変動対策や法人税増税を盛り込んだ「インフレ削減法案」で両者が合意したことを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。歳出規模は約4,300億ドル。バイデン政権は20217月に35,000億ドル規模のビルド・バック・ベター(BBB)法案を発表したが、党内調整が難航し(2021年7月16日記事参照)、規模を半減させるなどしたものの(2021年11月1日記事参照)、12月にマンチン議員が正式に同法案への反対を表明(2021年12月23日記事参照)。与野党勢力が拮抗(きっこう)する上院では1人でも民主党から反対が出ると法案成立が見込めないことから、事実上、同法案成立は頓挫していた。今回のインフレ削減法案はBBB法案の規模をさらに縮小させるなどすることで、合意に至ったかたちだ。

民主党が公表した法案要旨外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、歳出総額は4,330億ドル、うち3,690億ドルを気候変動対策に充てるとされており、具体的な中身として、中古および新車の電気自動車(EV)などのクリーン自動車を購入した場合にそれぞれ4,000ドル、7,500ドルの税額控除や、ソーラーパネルや風力タービンなどの国内製造投資への税額控除に300億ドルを充てることなどが柱となっている。こうした投資により、2030年までに炭素排出量は約40%削減されるとしている。残り640億ドルは、低所得者向けの医療費補助措置の3年間延長に充てられる。また、歳入措置も盛り込み、15%の最低法人税率設定による3,130億ドル、政府による薬価交渉などメディケア改革実施による2,880億ドル、内国歳入庁の税務執行強化による1,240億ドルなど、総額7,390億ドルの追加の歳入を見込んでおり、今後10年間で3,000億ドル以上の財政赤字削減効果があるとしている。マンチン議員は202112月の反対表明時には、財政支出によるインフレ加速懸念とともに財政を悪化させる点を挙げていた。議会予算局が2022728日に公表した財政見通しでは、2052年度の連邦政府債務残高のGDP比は185%としており、2021年に公表した2051年度見通しの200%超よりは改善するものの、引き続き高水準になっている。今回の法案は、マンチン議員の財政悪化の懸念に応えたかたちだ。

両議員の共同声明によれば、法案は民主党50人の賛成だけで法案可決が可能となる財政調整措置(注)の適用が可能かさらに検討された上で、8月第1週にも上院で採決が行われる見通しとしている。ただし、予定どおりに採決が行われるかは不透明だ。BBB法案時に法人関連の増税に反対する姿勢を示していた民主党のキルステン・シネマ上院議員(アリゾナ州)は今回の法案の賛否をまだ表明していないことに加え、米国でも新型コロナウイルスの感染が再拡大している中、ここ数日で複数の上院議員が新型コロナウイルス陽性と診断されており、マンチン議員も725日に陽性と診断されている。与野党勢力が拮抗する上院では1人でも民主党からの賛成が欠ければ、法案成立が事実上困難になる情勢にあり、引き続き同法案の採決の動向が注目される。

(注)上院では通常、法案可決には議事妨害(フィリバスター)を抑え込むため、クローチャー(討論終結)決議に必要な60票の賛成が必要となる。ただし、歳出・歳入・財政赤字の変更に関する法案については、財政調整措置(リコンシリエーション)を利用し、過半数での採決が可能。賛否が50票同数の場合、議長を務める副大統領の1票で採決となる。

(宮野慶太)

(米国)

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