USMCA自動車原産地規則の解釈をめぐるパネル裁定、11月に公開予定

(米国、メキシコ、カナダ)

ニューヨーク発

2022年08月05日

米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の自動車原産地規則の解釈をめぐる米国対メキシコ、カナダの係争に関して、紛争解決パネルの公聴会が823日、米国の首都ワシントンで開催された。

USMCAは第4章で、加盟国間(域内)で取引される物品に特恵関税を適用する際の原産地規則を定めている。特に、自動車分野は同章の付属書で厳しい規則が定められている。完成車が域内貿易で無関税の適用を受けるにはいくつかの条件を満たす必要があるが、今回の係争の焦点となっているのが、域内付加価値割合(RVC)をめぐる解釈だ。無関税の適用を受けるには、完成車の最終価格のうち一定の割合以上の価値が域内で付加されている必要がある(注1)。さらに、コアとなる7種類のパーツ(コアパーツ)それぞれについても、同様の条件が課されている(注2)。1種類でもRVCが満たせない場合は完成車の無関税での貿易は認められないが、救済規定として7種類全てを1つのパーツ(スーパーコア)とみなして全体でRVCを満たしていれば、条件をクリアしたとみなされる。

紛争当事国の間では、RVCを満たしてUSMCA域内の原産性を獲得したコアパーツまたはスーパーコアを完成車に組み込む場合に、同パーツに域外付加価値が含まれていてもRVC100%とみなすか(いわゆるロールアップ方式)、純粋に域内付加価値の比率のみをRVCと認めるかで主張が分かれている。米国がロールアップ方式を否定する立場であるところ、メキシコとカナダは20221月に、それは認められるとして紛争解決パネルの設置を要請するに至った。米国通商代表部(USTR)が7月に公表した、USMCA下の自動車貿易に関する報告書によると、米国内では、労働組合は米政府の主張を支持する一方、自動車メーカーはメキシコとカナダ側の主張を支持している(2022年7月4日記事参照)。

今回のパネル公聴会はあくまで、双方が主張をぶつけ合うことが目的だ。パネルはそれらの主張を聞いた上で、裁定結果をまとめた報告書を作成する。5人で構成されるパネルの議長は、国連大使を務めた経験もあるウルグアイのエルビオ・ロセッリ氏が務めており、同氏によると、パネルの最終報告は1110日までに当事国へ提出される(通商専門誌「インサイドUSトレード」83日)。USMCAによると、報告書はその後15日以内に公開されることになる。

(注1)段階的に引き上げられることになっており、ネットコスト方式で、発効時が66%、2021年が69%、2022年が72%、2023年以降が75%となる。ネットコスト方式とは、FOB取引価額から利益を除いた総費用から、販売促進費、マーケティングおよびアフターサービス関連費用、使用料、輸送費および梱包(こんぽう)費ならびに不当な利子を減じた純費用(NC)を分母とし、純費用から非原産材料価額(VNM)を控除して残った付加価値が純費用の何%に相当するかで計算する方式。

(注2)エンジン、トランスミッション、車体・シャーシ、駆動軸・非駆動軸、サスペンション、ステアリング、先端バッテリーについて、それぞれネットコスト方式で75%か取引価格方式で85%となる。ただし、先端バッテリーのみ、関税分類変更基準の適用が可能。取引価格方式とは、FOB取引価額(TV)から非原産材料価額(VNM)を控除して残った付加価値で判断する基準。

(磯部真一)

(米国、メキシコ、カナダ)

ビジネス短信 9ff5e88828a8ebde