深刻さ増す欧州の干ばつ、農業や電力部門などへの影響広がる

(EU)

ブリュッセル発

2022年08月29日

EUの災害対応サービスを提供する「コペルニクス危機管理サービス」の1つ「グローバル干ばつ観測所(Global Drought ObservatoryGDO)」は823日、報告書「欧州の干ばつ(2022年8月号PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます))」を発表した。それによると、2022年初めから欧州の多くの地域が干ばつに見舞われており、8月初旬までにその深刻度が増している。同月初旬時点で干ばつの深刻度を3段階で評価する指標(注)のうち最も高い「警戒(Alert)」に該当する地域は欧州全域の17%、2番目に高い「警告(Warning)」にあたる地域は47%に相当する。広範囲にまとまった雨が降らず、5月以降、熱波が続いていることから状況は改善していない。

干ばつによる最も深刻な影響を受けている部門の1つが農業だ。欧州委員会の共同研究センター(JRC)の「欧州の収穫量調査(2022年8月号)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、EUでは、夏作物であるトウモロコシ、大豆、ヒマワリの単収(単位面積当たりの収量)が、20172021年の5年間の平均と比較し、それぞれ16%減、15%減、12%減となるとの予測が示された。また、畜産部門も大きな影響を受けている。

例えばフランスでは、この時期、多くの農場で牛が放牧されるが、牧草が育たないため、冬用に備蓄している干草を与えざるを得なくなっている。さらに、生産コストを抑えるために飼育頭数を減らし、家畜の売却に踏み切る農業事業者に関する報道が相次いでいる。同国では今後の牛肉や乳製品の供給不足を懸念する声も出始め、中部オーベルニュ地方では、EUの原産地呼称保護(PDO)の対象であるサレール・チーズの生産が一時中止に追い込まれた。サレールの生産仕様書では、生産者は放牧を行い、牛には牧草のみを与えると定めているが、干ばつにより牧草が不足しているからだ。サレールは4月中旬から11月中旬にかけてのみ生産されるチーズで、関係者は2022年の生産量は前年に比べ15%減となると予測している。

干ばつの影響は電気エネルギー部門にも広がる

GDOの報告書によると、欧州における猛暑や水不足は水力や原子力による電力生産にも影響を与えている。例えば、イタリア北部やポルトガルでは水力発電用の貯水量が平年の半分を下回っている。また、フランス南西部では、原子力発電所の冷却水を取水しているガロンヌ川の水温が高過ぎるため、同地域にある発電所の1つが出力を落とさざるを得なくなったほか、ローヌ川沿いにある原子力発電所でも繰り返し警告が出された。

また、水運部門にも影響は及んでいる。オランダではライン川の水位が低下し、商船の運航に支障をきたし、積載量を減らした結果、石炭や石油の運搬に影響が及んでいる。

GDOによると、欧州の地中海地域では平年より高温で乾燥した状態が今後、11月まで続き、特にイベリア半島では今後3カ月間は異常に乾燥した状態が続くことが予想されており、南欧諸国を中心に干ばつの影響はまだ続きそうだ。

(注)GDOでは欧州の干ばつの深刻度を、降水量が例年を下回っている状態を「注意(Watch)」、加えて土壌水分も不足している状態を「警告(Warning)」、さらに植物の生育にも影響が出ている状態「警戒(Alert)」の3段階で評価している。

(滝澤祥子)

(EU)

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