米中対立など国際情勢の先行きに暗雲、リー首相が警告

(シンガポール)

シンガポール発

2022年08月16日

シンガポールのリー・シェンロン首相は88日、翌9日の独立記念日に際して国民へのメッセージを発表し、米中対立など同国を取り巻く国際情勢の先行きに暗雲が垂れ込みつつあると警告した。また、経済情勢の見通しについて、世界が数十年にわたって享受してきた低インフレと低金利状態に近い将来戻ることはないとの見方を示した。同首相は国民に対し「この地域でこれまで数十年と同じような安定と平和が今後数十年先も享受できないという可能性に、心理的に備える必要がある」と強調した。

リー首相はメッセージの中で、悪化する米中関係が当面改善する見通しはなく、誤算や事故によって今後一段と悪化する可能性を指摘した。また、同首相はロシアによるウクライナ侵攻によって米中関係が緊迫化するとともに、米国のアジアにおけるパートナー国と中国との関係に緊張をもたらしていると述べた。同首相は「周辺地域で高まる緊張と対立によって、シンガポールも打撃を受ける」と語った。

さらに、リー首相は、ロシアによるウクライナ侵攻でサプライチェーンの混乱とインフレの双方の問題がさらに悪化し、世界中で食品とエネルギー価格が上昇していると語り、シンガポールが輸入インフレを緩和するために金融引き締めに踏み切り、シンガポール・ドル(Sドル)高へと誘導したと指摘した。シンガポール通貨金融庁(MAS、中央銀行に相当)は20211014日にそれまでの金融緩和から引き締めへ金融政策の方針を転換し、その後も2022125日、414日、714日とそれぞれ連続して追加引き締めを発表している(注)。このほか、同庁は714日、住宅関連費と民間輸送費を除いた2022年通年のコア・インフレ率の予測をそれまでの「2.53.5%」から「3.04.0%」へ上方修正した。また、総合消費者物価指数(CPI)の上昇率予測もそれまでの「4.55.5%」から「5.06.0%」に上方へ修正している。

同首相は、こうした国際経済情勢の変化に対する対応として「(シンガポールの)産業を変革し、国民のスキルを向上させ、労働生産性を引き上げるべき」だと述べ、これによりインフレを上回る実質ベースの所得を増やしていくことが可能だと訴えた。

(注)MASは金融政策の手段として政策金利を設定せず、毎年通常4月と10月に通貨Sドルの為替変動幅の見直しを実施している。同庁はSドルの為替レートの設定に当たり、米国を含む主要貿易相手国の通貨で構成する通貨バスケット制を採用しているが、具体的な構成通貨や変動幅を公表していない。

(本田智津絵)

(シンガポール)

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