米USTRからのUSMCA違反に関する指摘、メキシコ大統領と産業界に温度差
(メキシコ、米国)
メキシコ発
2022年07月26日
米国通商代表部(USTR)が7月20日付で行ったメキシコのエネルギー政策をめぐる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく協議申請(2022年7月21日記事参照)に対し、メキシコ経済省は同日付のプレスリリースを発表し、USTRの申し入れをUSMCA第31条4項に基づいて正式に受諾し、「メキシコ連邦政府はこの協議で相互に満足する解決に至れるよう取り組む意思がある」と記した。
同省のルス・マリア・デ・ラ・モラ通商交渉担当次官はロイターの取材に対し、「率直で開かれた対話を通し、どのようにすればわれわれが相違を乗り越えて相互に満足できる解決に至れるのかを見極めたい」と述べた。また、USMCAが持つ紛争解決機能は「強固」であり、「投資環境に関する見通しの確実性を与える」もので、「ビジネス環境にとってポジティブなもの」との見方を示し、2022年末までの問題解決を目指すとした。ロイター通信は、デ・ラ・モラ次官はエネルギー政策がUSMCAに違反していないことを理解してもらえるように努めると説明しているものの、協議を通してUSMCA加盟国の全てに裨益(ひえき)する解決を模索するとしている点がアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領の「挑戦的」な発言(後述)とは対照的だと評した(ロイター7月22日)。
AMLO大統領は「何も問題は起こらない」と認識
AMLO大統領は7月20日の記者会見で「エネルギー政策について、米国とカナダの企業家、とりわけ国内の企業家による反対運動が推進」されており、その結果、USTRから協議の申し入れを受けることになったと説明し、メキシコが米国から制裁措置を受ける可能性が高まって「反対勢力は喜んでいる」が、「何も問題は起こらない」と説明した。さらに、自身の出身地タバスコ州のアーティスト、チコ・チェの楽曲「おお、なんと恐ろしい(Uy Que Miedo)」を流すようにスタッフに命じ、記者会見会場で同楽曲の映像を流した。同楽曲を記者会見の場で引用したことについて、主要メディアは「事態の矮小(わいしょう)化」と批判した。
経済界はUSTRの指摘があった事態を重く受けとめ、メキシコ政府の対応を注視していくとのプレスリリースを相次いで発表している。日本の経団連に相当する企業家調整評議会(CCE)は「USMCAは成長や雇用創出、北米地域の統合にとって必要不可欠」と題するプレスリリースを公式ホームページのトップに掲げ、メキシコ経営者連合会(COPARMEX)は「数億ドルに達する制裁措置や投資喪失のリスクがあり、USMCAの枠組みでの解決を強く求める」とプレスリリースで発表している。メキシコ工業会議所連合会(CONCAMIN)もツイッター上のプレスリリースで懸念を表明し、ホセ・アブガベル・アンドロニCONCAMIN会長は「貿易・関税制裁措置の適用を避けるために、メキシコ政府はUSMCAが加盟国に課す義務を受け入れるべきだ」と述べた(「エル・エコノミスタ」紙7月20日)。
(松本杏奈)
(メキシコ、米国)
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