EU理事会と欧州議会、外国政府の補助金受けた企業の合併など規制する法案に暫定合意

(EU)

ブリュッセル発

2022年07月11日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は630日、欧州委員会が202155日に提案したEU域内市場に歪曲(わいきょく)的な効果を及ぼす外国補助金(域外国政府による資金的貢献)に対処する規則案(2021年5月6日記事参照)について、暫定的な政治合意に達したと発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。EUでは、加盟国政府による特定の企業に対する補助金を原則禁止していることから、EU域内市場における、補助金を受けていないEU企業と域外国政府の補助金を受けた域外企業の間に公平な競争環境が必要だと指摘されていた。この規則案はこうした事情を背景に、域外国政府の補助金を受けた企業の活動によって生じるEU域内市場での歪曲的な効果を是正することを目的として、欧州委がこうした企業の活動を審査する包括的な枠組みを設定している。

政治合意の詳細な内容は公表されていないものの、今回の発表によると、欧州委は規則案を実施する排他的な権限を持つことになり、域内での大規模な合併や公共調達への入札の際には、欧州委に対して事前に通知し、承認を受ける必要がある。事前通知の対象となる合併や公共調達の基準に関しては、両機関は欧州委の提案を維持することで合意したとしている。

欧州委の提案では、事前通知の対象は以下のとおり。

  • 合併:被買収対象企業、合併する企業の少なくとも1社、または合弁会社(JV)を設立する場合は、JV自体もしくはその親会社の少なくとも1社がEUで設立された企業の場合で、こうしたEU企業のEU域内での年間売上高が5億ユーロ以上、かつ通知前の過去3年間の域外国政府による資金的貢献が5,000万ユーロ超の場合。
  • 公共調達:EU域内で実施される概算額で25,000万ユーロ以上の公共調達に入札する企業が域外国政府による資金的貢献を受けている場合。

また、欧州委は、事前通知の対象とならない小規模の合併や公共調達を含め、あらゆる案件を職権により調査する包括的な権限を有しており、規則案の施行後だけでなく、施行時点から過去5年間に提供された外国補助金が調査の対象になり得る。

欧州委は、審査の結果、外国補助金によるEU域内市場への歪曲効果が投資のもたらす経済効果を上回ると判断する場合、合併あるいは公共調達への入札を不承認とすることができるほか、歪曲効果を解消するための救済措置を課すことができる。また、事前通知義務を怠った場合には、罰金を科すこともできる。

域外国の企業がEU企業を買収する際などは、従来のEU競争法の基づく審査に加えて、安全保障や公の秩序の保護を目的とした対内直接投資審査規則(2020年10月13日記事参照)も施行されるなど、域外からの投資を規制する動きが強まっている。規則案に関して、欧州議会国際貿易委員会(INTA)のベルント・ランゲ委員長(ドイツ選出)は、保護主義の問題でなく、公平性の問題だと述べた。一方、2022年上半期にEU理事会の議長国を務めたフランスのブリュノ・ル・メール経済・財務・産業デジタル主権相は、EUの経済的利益を守るための大きな一歩と強調した。

今回、EU理事会と欧州議会が規則案について政治合意をしたことから、両機関それぞれでの正式な承認手続きを経て、規則案は施行される見通し。

(吉沼啓介)

(EU)

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